宮崎里司のオックスフォード通信 第4回

昨年9月から始まったサバティカルも,あとわずかになった。その間,研究地からの発信を自らに課してきたが,プリンストン通信が3回,モナシュ通信が4回,そしてオックスフォード通信が4回と,都合11回にも上った。

この1年,1週間以上の滞在をした国は7ヶ国に及んだ。米・豪・英以外にも,マレーシア,フランス,ウズベキスタンなど,招待講演,ワークショップや研究調査などで滞在し,アカデミックやその他の関係者との交流を通して,自らの軸足を見つめながら,変容を遂げてきた。

1年間の在外研究期間は,研究室で待つ院生にとっても,いろいろ考える期間になったようだ。研究期間を,指導が受けられない「空白期間」と誤解してしまった院生もいたようだが,とくに留学生には,わかりやすく理解させるべきであったと反省している。それと同時に,一般的に,spoon feedingな指導に慣れ,教員の指導計画に従えば,研究は達成できると考える院生は,論文とは自らの手で書き上げるもので,指導教員との共同執筆ではないと再認識する必要がある。

大学機関で働く日本語教育関係者を取り巻くアカデミックな構造を観察するにつけ,この分野の地位向上のためには,根本的な意識改革を進めていく必要があると感じた。海外の大学では,日本語教育関係者の多くは,意に反して,いわゆるjunior staffとしてbottom heavyを形成している。こうした現状をモニターし,さまざまな意味で,自らの向上が日本語教育全体の底上げに寄与すると,真剣に考えるスタッフはどの程度いるだろうか。次世代に期待するしかないと思う向きもあるが,それでは,日研卒業生をはじめ,これから海外に出て活躍したいと考える次世代が,あまりにもかわいそうだ。我々大学院教授の使命は,研究科所属の院生が行う研究を成就させ,学位授与と共に,一人一人のアイデンティティ形成を見据えながら,ぶれない軸足を構築するよう指導することにもある。