【発言】多文化共生のまちづくり推進

キーポイントは日本語教育――新宿区長:中山弘子 氏

東京都新宿区の外国人登録人口は約三万人,区総人口のほぼ一割を占める。都内では数,比率ともトップに位置する。そうした現実を踏まえ,同区では外国人と共生する地域づくりに取り組んでいる。その陣頭指揮にあたる新宿区長の中山弘子氏に施策の現状と課題を聞いた。

先ごろ発表された「新宿区における外国籍住民との共生に関する調査」(新宿文化・国際交流財団)には,日本語学習の重要性が述べられています。そこでまず,日本語学習,日本語教育について区長のお考えを聞かせて下さい。

中山: 外国人の多いまちという新宿の特色を,私はプラスイメージに転換したいと考えています。日本人住民にとっても外国籍の方にとっても,安心して住み続けていけるような,多文化共生のまちをつくっていくことが現実として必要というのが,私の基本認識です。

新宿区は総人口の一割が外国籍住民ですが,地域によっては住民の四五%が外国人というところもあります。そういう現実のなかで,日本語を基軸言語にしてコミュニケーションが的確にできるようにすることが必要だと思います。

具体的には,日本語によるコミュニケーションを通じて,トラブルを未然に防ぐとか,いつ来てもおかしくない大地震など災害時の安全を図るとか,お互い積極的に交流を深めていくとか,そういうことができるようになります。

ですから,日本語によるコミュニケーションが,共生社会をつくっていく上でキーポイントになると考えています。

国際交流財団の調査でも,日本で生活する上で困っていることとして「ことば」が33%と,上位にランクされていますね。

中山: 財団はさまざまなプログラムを実施しているのですが,そのプログラムについての調査では,「知っていること」「もっと力を入れてほしいこと」「参加したいもの」のなかで,日本語教室が群を抜いて高いことがわかりました。

このような調査結果を踏まえて,これから区として日本語学習の機会をいろいろな形で充実させていくことが必要だと考えています。

行政としては,多言語による,相談窓口をつくる,的確な情報提供を行う,さらには交流の機会をつくっていく。とりわけ,私たちがすぐやらなければいけないのは,区内に住んでいる外国籍の方々のネットワークづくりです。

新宿区在住の外国人は韓国・朝鮮の方々が一番多くて一万人を超えています。次いで中国の方が九千五百人ほどですが,最近は中国の方の伸び率が非常な勢いで伸びています。

そういうなかで,なかなかお互いがお互いの状況を知り合う機会がないのが現状です。そこで,お互いを知り合うためのネットワークづくりをこれから進めていきます。

ひと口に共生といっても,ゴミの出し方がおかしいとか,一部屋に何人もが住むのはどうかとか,商売をやっていても商店会に入らないとか,こんな問題が現実に起こっています。ただ,こういった問題は,お互いに知り合うことで解決できると思います。そのためにもネットワークづくりが重要です。

行政のほうも,外国人の方々が何に困っているのか,何を望んでいるのか,どこがよくて新宿に住んでいるのかといったことを,きちんと把握しているわけではありません。私たちにとっても,そういう交流の場,ネットワークを通じてお互いに知り合うことがぜひ必要ですので,すぐ実現したいと考えています。

多文化共生社会を実現していく上で,東京都や国への要望はありませんか。

中山: 私は,実際に現場を持っている区市町村こそが施策提案をすべきだと思っています。

ただ,これまでそういう提案をする力がこちら側になかったわけで,これからは現場感覚を生かして都や国へ積極的に提言をしていきたいと考えています。

当面する課題として看過できないのは,犯罪と密接に結びついている不法滞在の問題で,これは法律に基づいて責任をもって対処していただきたいですね。

(安西純子)

※以上,『日本語教育新聞』22号(平成16年5月1日号,ISSN:1347-2011)より転載。