ルンド大学(スウェーデン)・日本語科

報告者:稲葉美穂

ルンド大学日本語科の教室風景 1私は2004年3月から、スウェーデンのルンド大学というところで日本語を教えています。ルンド大学は、スウェーデン南部のルンドという町にあります。ルンドは小さい町ですが、ヨーロッパらしい石畳が随所に残る、歴史ある街です。ルンド大学も北欧で一二を争う伝統校で、規模も大きく、色々な学科がある、"総合大学"です。その中で、日本語科は東南アジア語学科に属しており、現在1~3年生まで約60名の学生が日本語を勉強しています。

スウェーデンでは、他にストックホルム大学、ヨーテボリ大学などに日本語科があります。それぞれに特徴があるそうですが、ルンド大学は、昨年から媒介語を使用しない、"直接法"の授業の割合を増やしています。ヨーロッパでは直接法はあまり行われていないようですが、ルンド大学の学生に関しては直接法に対して抵抗はなく、むしろ肯定的に捉えていると思います。学生からは「もっと日本語を話して欲しい」という意見が出るくらいです。

ルンド大生の敬語意識

ルンド大学日本語科の教室風景 2私が授業中、また授業外で学生と接する中で感じているのは、ルンド大学の学生に関して言えば、敬語を使うこと、話している相手やシチュエーションによって表現を使い分けることに抵抗をほとんど持っていないということです。スウェーデン語には、日本語のような語句レベルでの敬語はないそうです。また、学生に聞いたところ、相手やシチュエーションによる表現の使い分けも、あまりしないということでした。そのためか、敬語を難しいと感じている学生は多いように感じますが、私や他の先生方と話す時などにも積極的に敬語を使おうとしており、丁寧に話そうとする学生が多いのも確かです。学生は、失礼のない話し方、大人として恥ずかしくない話し方ができるようになりたい、そのためには敬語が使えるようになること、相手やシチュエーションによって表現を使い分けられるようになることが必要だと感じているのではないかと思います。それは、学生の中に「自分は大人だ」という意識が強くあるということと、日本の大学などから表敬訪問があった際に、学生を対象に日本語で話をしていただいたり、スピーチコンテストなどにスウェーデンで働いている日本人の方々に来ていただいたりし、実際に敬語を使う場面(敬語を聞く場面)に多く遭遇しているということもあると思います。また、日系企業や、日本の会社と取引のある会社で働きたいと思っている学生も多く、そういった学生の目的意識も関係しているのではないかと思います。

授業で感じたこと、思ったこと

ルンド大学日本語科の教室風景 3 私は先学期(2004年9~12月)、1年生の会話と2年生の漢字と作文を担当していました。1年生は、まだ敬語は勉強していませんでしたが、会話の練習の際(特に、誘いや依頼などの行動展開表現)に、「誰と誰が話しているのか」「どういうシチュエーションなのか」ということを意識させました。また、会話全体の流れも意識させました。会話全体の流れというのは、例えば、誰かを誘う時に、いきなり「今週の日曜日に、映画を見に行きませんか」と誘うのではなく、「今週の日曜日は何をしますか」などの予定を聞き、それから相手を誘う、ということです。いきなり誘うよりも、相手に配慮し、先ず相手の都合を聞いた方がいい、といったことは、少し説明すれば学生もすぐ理解できますし、会話の練習の度に、こういった説明をしていくことで、学生が自分から意識するようになっていると感じます。

2年生では、「日本の大学院に留学したいので、先生に推薦状を書いてもらうように頼む」という設定で、先生に依頼のEメールを書く、という練習を行いました。先ず、学生に「スウェーデンでは、どんな時に推薦状が必要か」「誰に推薦状を頼むか」「推薦状を頼む時は、どのぐらい丁寧にしたほうがいいか」などを考えさせてから、宿題として書かせ、学生が書いたものの中から気になった点を、授業でフィードバックしました。その際に、文法的な敬語の使い方だけを直すのではなく、私が読んで感じた印象(よくない印象を受けた部分)を正直にコメントするようにしました。例えば、「○日までに推薦状が必要です」だけで終わってしまい、「(お忙しいと思いますが)よろしくお願いいたします」などのお願いの言葉が抜けてしまっていたりした部分などです。こういった部分は、スウェーデン語と日本語の表現の仕方の違い、また個人の表現の仕方の違いも関係してくるところだと思うので、コメントする際はあくまでも「私は気になる」ということを強調しました。学生にフィードバックした際に、学生も「敬語を文法的に正しく使えるだけじゃダメなのか」「どうしたらいいんだ」「敬語を覚えるだけでは足りないんだ」という反応をしていました。こういった点は、学生にとってもこれからの課題だと思いますが、私自身にとっても、指導する際の大きな課題であると感じました。

最後に・・・

私がルンド大学で日本語を教え始めて、もうすぐ1年になります。その間、私がずっと感じているのは、学生がとても素直で、真面目で、よく勉強する、ということです。ルンド大学日本語科の学生の敬語意識、敬語に対する反応など、私が思うところを少し書きましたが、学生が敬語を一生懸命勉強するのは、上に書いたようなことだけでなく、やはり学生の「日本語を勉強するぞ」という熱心さ、貪欲さが大きいと思っています。みんな、本当に一生懸命日本語を勉強しています!!