アメリカで考える

坂田麗子(研究内容紹介

[2006-11]

アメリカに渡って3ヶ月が過ぎようとしています。私は,小池愛さんの引き継ぎでアーラム大学(Earlham collegeにいます。私が今いる状況については,小池さんの実践報告を読んでいただければお分かりになると思います。ここでは,小池さんの実践報告のタイトルにある「アメリカで考える」を借用させて(引き継がせて)いただき,日本語教育についてアメリカで考えたことを書かせていただきます。

私が最近よく考えるのは,与えられた環境を最大限に生かして教育を行うことについてです。アーラム大学では,与えられた環境を最大限に生かして日本語教育が行われています。アーラム大学は,学生約1200人と非常に小規模な大学ですが,日本語を学ぶ約70名の学生のために様々な工夫がなされています。

まずひとつめの工夫は,授業内容です。もちろん,授業は指定の教科書を主に使用していきますが,それ以外にも作文やクイズなど小まめに行っていきます。そういった学生の提出物に,教師はしっかりとフィードバックを行います。また,ミニスキットといって今までの既習項目を使って学生でペアになってもらい劇をするという創造的な活動もあります。そして,日本人の留学生と交流を図るためのインタビュープロジェクトなども盛んに行われます。教室を出て,既習の日本語を実際に使ってみる活動は,学生たちにとっても魅力的な活動であるようです。

次の工夫は,ドリルセッションというプラスアルファの授業です。この授業は,日本語教授法を取っている学生が,日本語を学んでいる初級の学生に授業をします。日本の大学で設置されている日本語教授法の授業では,多くのクラスで実習が設けられていないと思います。設けられているとしても,授業で理論をたくさん学んでから最後に一回実習できるというのが常でしょう。しかし,ここでは日本語教授法が開始した2週目からすでに実習が並行して行われます。日本語を教えたことのない学生が,知識もろくにないまま急に本物の学生たちを前に教えることになるのです。ほぼ同じ年齢の学生が教師となる。そのため,授業の進め方や,提示の仕方などは見ていられない時もあります。しかし,ここでは,教師となる学生も,学生から教えてもらう学生もリラックスした中,授業が行われます。つまり,日本語の授業が成り立ってしまうのです。最初私はこの現象が不思議でなりませんでした。しかし,日本語を学びたい学生は,日本語を教えたい学生から学ぶ機会をもらい,日本語を教えたい学生は日本語を学びたい学生から実践の機会をもらう。この双方のニーズを最大限に生かした日本語教授法の授業は,まさに「与えられた環境を最大限に生かした授業」なのです。ここで日本語教授法を取った学生が,将来日本語教師になるとしたら,きっと経験豊富で想像力を働かせた授業を行うことでしょう。

みっつめの工夫は,日本語を学ぶ学生のための環境づくりです。ジャパンハウスといって私が住んでいるシェアハウスには,日本語を専攻する学生が一緒に住んでいます。そして,私たちは定期的に映画会やイベントを行ってたくさんの学生たちに,日本を紹介します。また,学部ではカレーライスパーティや,スポーツ大会などを通して日本人の留学生や日本語を選考する学生のための交流会も企画します。日本への留学プログラムがあることも,学生たちにとって日本語を学ぶ大きな動機になっています。

このような環境の中,私はTAをしています。24時間学生と共に過ごしているので,いいことばかりではありません。しかし,私はこのような環境で学生と関わることができることを本当に心から感謝しています。それは,授業だけで学生たちの日本語を考えていくのではなく,学生たちの生活全てを包括して彼らの日本語を考えていくことができるからです。

日本語教育で最も重要なことは,与えられた環境を最大限に生かした教育を行うことだと思います。それを上手く実行し,さらに良くして行こうと努力されている先生方のもとで私は今,働いています。それがこのアーラム大学なのです。このような提携校を持っている早稲田大学は,本当に素晴らしいと思います。と同時に,このような留学生たちを受け入れる早稲田大学だからこそ,環境を最大限に生かした教育ができているのかどうかを常に検討し,実行していかなければならないと思います。

「自分の現場を離れて,改めてその現場を知る」

このことの大切さを身にしみて感じている私なのでした。

坂田麗子(さかた れいこ)