トウモロコシ畑の風―ペイのアメリカ便り

鐘珮禎(研究内容紹介

第1回 「先生は,いったいどこの人?」 [2005-10]

2005年8月,私はアメリカのマンマス大学(Monmouth College)に日本語教師として赴任しました。大学がある町 イリノイ州のマンマスという,人口七万人ほどの小さな町です。あたりはトウモロコシ畑がひろがっています。そこで,このエッセイを「トウモロコシ畑の風」としました。これから,アメリカの大学で感じたことや考えたことなどを書きますので,楽しみにしていてください。

第一回めは,こちらの大学生が私のことをどう思っているかについて書きます。学生たちは,私が日本人なのか,中国人なのか,台湾人なのかもわからない様子で,「先生は,いったいどこの人?」と質問してきます。それは,とても愉快なことです。

でも,台湾と中国のことを何も知らないのは,とても悲しいことです。そこで,次のようなことを話しました。みなさんにも,聞いてほしいです。まず,言葉です。台湾の中国語と中国大陸の中国語はほぼ通じます。ただ,漢字は違います。そして言葉遣いもちょっと違います。台湾では繁体字を使い,中国では簡体字を使っています。繁体字はわりと日本の昔の漢字と近いです。

また,台湾語についてですが,台湾では中国語以外,台湾語も使っています。台湾語と中国語はまったく違う言葉です。台湾語はもともと台湾に住んでいる人の言語です。なぜ台湾では中国語も使うかというと,それは蒋介石(国民政府)が中国から台湾に来てから,台湾をうまく統治するために中国語を国語として宣言し,台湾人に中国語を学ばせることにしたからです。

実は,それはまた歴史や政治に関係があるのです。私は子供の頃,学校教育ではずっと中国語でした。親は台湾語を話しているにもかかわらず,私はずっと中国語で親と会話をしていました。中国語は国語だとずっと思っていました。特に北部(台北)に住んでいる人がわりと中国語を使う割合が高いです。南部に行くと,台湾語の割合が高くなるんです。

しかし,台湾の大統領が蒋介石(外省人:中国から来た人)から李登輝さん(台湾人)そして,今の陳水扁さん(台湾人)に変わるにつれ,台湾では “台湾人意識”がだんだん高まってきました。台湾語は実は,台湾の国語だよと強調され始めました。

私が早稲田に留学したとき,研究室でよくアイデンティティのことが話題になりました。私の友人(慶応大学の講師)も台湾に関する研究をしていて,よく私に「あなたは台湾人だから,台湾意識を持ち,台湾語を話さないと」と言いました。その時,私はアイデンティティの確認について,とても戸惑っていました。自分は台湾人だと思っていても,周りの人が認めない。台湾は独立の国ではない中国の一部だよと思っている人は多いでしょう。確かに,国際的には台湾はまだ国ではないかもしれませんが,中国の一部でもないのです。しかし,中国と台湾とはどこが違うのですかと聞かれるとき,はっきりと答えられないのも事実です。中国と台湾の歴史はほとんど一緒だからです。

今,アメリカに来ても,よく聞かれます。先日,日本人の留学生にも「台湾は国ではないよ。中国の一部だよ。」と言われました。悲しかったです。何事も政治に関わると,複雑になってしまいますね。アイデンティティとは,一体何か,自分とは何かと考えると,複雑な気持ちになります。それは私が台湾人だからかもしれません。

今,アメリカで,私はまた自分のことを考えながら,生活しています。みなさんは,自分のことをどう考え,どう説明しますか。

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