カリブ海で考える@ドミニカ共和国日本語学校

井口翔子(研究内容紹介

第2回

みなさま,大変ご無沙汰しております。ドミニカ共和国日本語学校で活動している,M15期修了生の井口翔子です。第1回目のご報告からずいぶん時が経ってしまいましたが,今までの時間どのようなことをしてきたのか,簡単にご報告したいと思います。

1.1年目:2010年7月~2011年6月

『にほんごうきうき①――1』『にほんごうきうき①――2』

(上)『にほんごうきうき① - 1』『にほんごうきうき① - 2』

『にほんごうきうき①――1』第5課「くだもの」

(下)『にほんごうきうき① - 1』第5課「くだもの」

1年目は,ドミニカ共和国首都にあるサントドミンゴ校で活動しました。毎週土曜日が授業日です。私の担当は1年生10人。「1年生」といっても,日本の小学校の1年生とは異なり,6歳から8歳の子どもたちが学習者です。ドミニカ共和国日本語学校は,「○年生」を2年間かけて履修するシステムで,学年は「1年生」から「6年生」まで,年齢は6歳から18歳までの子どもたちが学習しています。

1年生で学習することは,あいさつや身近な語彙,そして,ひらがなです。ドミニカ共和国日本語学校には,『にほんごうきうき』という,1年生,2年生のためのオリジナル教科書があります。この教科書は白黒ですが,1年生の教科書の場合,あいさつや語彙がはっきりとした大きいイラストで描かれているので,ぬりえを楽しみながら学習することができます。とても自由度が広い教科書なので,工夫次第で色々な学習ができます。

1年間のあいだに,いくつかの教材を作成して実践しましたが,なかでも一番人気は「いろジェンガ」でした。市販のジェンガのピースをカラースプレーで色分けし,ひらがなで色の名前を書いたさいころを作ります(既に色分けしてある市販品もあるようです)。さいころをふって,出た色を読み,その色のピースをそっと取って積み上げていきます。子どもたちはわいわい大興奮です。ひらがなの読みが苦手な子でも,さいころに書かれた色の名前だけは,遊ぶうちに自然と読めるようになりました。ひらがなをはじめた子どもたちにとって,ちょうどいい文字を読み取る学習になったと思います。また,ジェンガを楽しみながら,「あぶない!」「だいじょうぶ!」「すごい!」など,日常ほかの場面で使える表現も学ぶことができました。

いろジェンガ

いろジェンガ

ドミニカ共和国日本語学校の子ども,とくにサントドミンゴ校の子どもは,日常生活で日本語にふれる機会がほとんどありません。そうすると,何のために日本語を学習するのかという声も聞かれます。日系社会で日本語を学習することの意義は,様々思うことがありますが,入学したばかりの子どもにそれを説いても理解できないでしょう。そこで,ここの子どもの日本語学習では,文脈をつくりだすことがとても大切だと思います。例えば,「いろジェンガ」という文脈をつくると,その文脈のなかに子どもの「読みたい」「言いたい」という気持ちが引き出され,必然的に日本語でコミュニケーションをすることになります。ここの子どもたちにとって,ゲームは学習項目を定着させるための反復練習の場ではありません。ゲームというその文脈こそがコミュニケーションの場所になるのです。そういったコミュニケーションの文脈,場をつくり出すことが,ここの日本語学校に必要なことではないかと考えています。

サントドミンゴ校では,この1年生クラスの他に,週1回の成人クラスを最初は1クラス,のちに2クラス担当しました。学習者は,子どもたちのお母さん,お父さん,お姉さん,お兄さんたちです。一家のお母さん,お兄さん,弟がみんな私の担当ということもありました。家族関係がわかると会話がはずみます。そのほか,盆踊り会,スピーチコンテスト,運動会,学習発表会などの学校行事がありました。これらの学校行事については,また機会をあらためて書けたらと思います。

2.2年目:2011年8月~(2012年6月帰国予定)

活動の2年目は,ペデルナーレス校とビセンテノブレ校という南部地方の2つの学校を担当することになりました。南部の交通の拠点である港町バラオナに住み,毎週2校に泊まりがけで出前授業という,「移動する」日本語教師生活を送っています。ペデルナーレスはハイチ国境に位置しバラオナからバスで3時間,月~水の2泊3日,ビセンテノブレは山あいの町でバラオナから1時間,金・土の1泊2日です。木・日が休日,授業準備。周りの人にはなにやら大変そうだと心配かけますが,やりがいは120パーセントです。というのも,ペデルナーレスは山の上のアグアスネグラスという移住地につながる家族,そしてビセンテノブレは近くのネイバ移住地から引っ越してきた家族が暮らしていて,移住地の近くで家族と寝食をともにしながらの授業運営は,これぞ日系社会のなかの日本語教師という実感にあふれたものだからです。

カリブ海の絶景をバスの車窓から眺めながら,国境まで海外線を走ります

カリブ海の絶景をバスの車窓から眺めながら,国境まで海外線を走ります

ペデルナーレス校は,2010年に開校した新しい学校で現在2年目,学習者は8歳から15歳の7人です。ビセンテノブレ校は2008年開校で現在4年目,学習者は6歳から17歳の11人です。南部2校の特長は,なんといっても新しい学校でみんなのやる気が感じられるところだと思います。保護者のみなさんもとても学校に協力的で,いつも大変お世話になっています。その反面,学習者の期待に教師が応えきれていないのが実情で,自身を反省することしきりです。それぞれの年齢,発達段階,日本語能力,生活背景にふさわしい興味・関心を引き出しながら授業を展開するのは,今の私の時間と能力では追いつかない部分があります。それでも,いつも子どもたちにヒントをもらいながら,ここでも試行錯誤の連続です。残りの時間も少なくなってきましたが,「移動する」日本語教師として邁進したいと思っています。