カリブ海で考える@ドミニカ共和国日本語学校

井口翔子(研究内容紹介

第1回

こんにちは,川上研究室M15期修了生の井口翔子です。私は今,カリブ海に浮かぶ島,イスパニョーラ島東部のドミニカ共和国にいます。こちらに来て半年が過ぎようとしていますが,日研のみなさま,研究室HP訪問のみなさまに,遅ればせながら私の活動をご報告したいと思います。

2010年6月,JICAの日系社会青年ボランティア制度によりドミニカ共和国へ到着し,7月より首都サントドミンゴにあるドミニカ共和国日本語学校に赴任しました。この地で2012年までの2年間,日本語教師として活動します。今回は,このJICA日系社会青年ボランティア制度,および,ドミニカ共和国日本語学校のはじまりについてご説明したいと思います。

1.JICA日系社会青年ボランティア

JICAのボランティアと聞いて「青年海外協力隊」がパッと思い浮かぶ方は多いと思います。実は,JICAボランティアには大きく分けて4種類の制度があります。「青年海外協力隊」,「シニア海外ボランティア」,「日系社会青年ボランティア」,「日系社会シニアボランティア」の4つです。これらの世界各国へ派遣中のボランティアは,2010年9月30日現在,それぞれ2,604人,639人,79人,34人となっています(国際協力機構青年海外協力隊事務局,2010,p.54)。「シニア海外ボランティア」は「青年海外協力隊」の,「日系社会シニアボランティア」は「日系社会青年ボランティア」の,それぞれシニア版と考えて差し支えないでしょう。

では,「青年海外協力隊」と「日系社会青年ボランティア」がどのように異なるかというと,前者が広く発展途上国を協力の対象としているのに対し,後者はラテンアメリカ諸国に広がる日系社会をその対象にしている点です。つまり,シニアを含めて「日系社会ボランティア」とは,戦前戦後を通じて日本がラテンアメリカ諸国へ送りだした移住者の支援を目的としているのです。現在「日系社会ボランティア」が派遣されている国々は,アルゼンチン,コロンビア,パラグアイ,ブラジル,ボリビア,ドミニカ共和国の6か国です。

写真:ドミニカ共和国ネイバ移住地の日本人移住者住居跡写真:ドミニカ共和国ネイバ移住地の日本人移住者住居跡

では,なぜJICAはラテンアメリカ諸国にこのようなボランティアを派遣しているのでしょうか。それは,JICA設立の起源から明らかになります。戦後の海外移民事業は政府主導のもとにラテンアメリカ中心に発展し,1955年に外務省に「移民局」が設立され,1963年には移民事業関係の全ての公的機関が統合されて「海外移住事業団」が発足しました。そして,日本社会が成長し先進国となると,開発途上国への政府開発援助(ODA)の一環として日系社会へ協力することになり,1974年「海外移住事業団」が改組され「国際協力事業団」となったのです(東,2002,pp.81-83)。これが2003年に発足した現在のJICA,「国際協力機構」の前身です。つまり,「日系社会ボランティア」とは,移住者にとってまだまだ現実として続いている日本の移民事業の責任の一端を担うものであると考えられるでしょう。

2.ドミニカ共和国日本語学校のはじまり

それでは,ドミニカ共和国は,どのような日本人移住の歴史を持っているのでしょうか。2000~2006年の「ドミニカ移民裁判」が記憶に新しい方もいらっしゃると思います。ドミニカ共和国への日本人移住は,1956年から1959年の3年間に日本政府の政策により実施されました。当時,農業移住者を中心にドミニカ共和国8か所の移住地へ計249家族1319名の日本人が移住しました(嶽釜,2009,p.101)。しかしながら,約束されたはずの土地が配分されなかったり,農業に不適切な土地へ拘束されたりと,移住者の想像を絶する苦難が絶えず,1960年には集団帰国という結果になりました。それでもこの地に残った約50家族が,現在のドミニカ共和国に生活する日系のみなさんにつながるのです(嶽釜,2009,p.98)。

写真:ドミニカ共和国日本語学校サントドミンゴ校校舎写真:ドミニカ共和国日本語学校サントドミンゴ校校舎

ドミニカ共和国の日本語学校は,1959年,最初の移住地であるハイチ国境近くのダハボンで私塾のようなかたちで開始されたそうです。途中,1961年の大統領暗殺にはじまる国内の政情不安から一時閉鎖の時期を経て,1970年代に再開されました(山内,2010,p.34)。そして,現在はドミニカ共和国各地8か所で日本語の授業が開講され,移住者の3世を中心に約100名の子どもたちが日本語を学習しています。

以上,今回はJICA日系社会青年ボランティア制度,および,ドミニカ共和国日本語学校のはじまりについてお伝えしました。これからもこの場を借りて私の活動をご報告したいと思います。また,学校行事や日々の出来事をブログ「ドミニカ共和国を翔ける」(http://volando-por-repdominicana.blogspot.com/)でご紹介しています。

文献

  • 嶽釜徹(編)(2009).『ドミニカ共和国日本人農業移住者50年の道――青雲の翔』ドミニカ日本人移住50周年記念祭執行委員会記念誌編纂委員会.
  • 東栄一郎(2002).日本人海外渡航史『アメリカ大陸日系人百科事典』(pp.64-85)明石書店.
  • 国際協力機構青年海外協力隊事務局(編)(2010年12月号).『クロスロード』46(14).
  • 山内かおり(2010).ドミニカ共和国日本語教育のあゆみ『継承日本語教育センター研究紀要』5,34-40.