2002年9月入学(4期生)

劉佳琦

2009年3月,博士号取得

修士論文:中国人初級学習者による日本語有声・無声破裂音の知覚に関する一考察

本研究では,中国人学習者にとって習得が難しいとされる日本語の有声・無声破裂音に知覚習得に関しての一考察である。また,中国(北方・上海)方言が日本語の有声・無声破裂音の知覚習得に与える影響について分析した。

本研究は,中国の大学に在籍している日本語初級学習者40名(北方:20名,上海:20名)を対象に行なった。調査語として日本語の有声破裂音/b//d//g/,無声破裂音/p//t//k/がそれぞれ語頭,語中にある場合の3拍の有意味語を60語使用した。アクセント型は頭高型,平板型,中高型である。また,調査方法として,日本語母語話者の発音を録音し,その録音を日本語学習者に聞かせ,有声・無声破裂音の部分だけ聞き取らせた。そのデータを統計処理し,分析した。

本研究の結果について,以下のように述べる。

  1. 有声・無声破裂音の知覚に関しては,語中より語頭のほうが聞きやすい。
  2. 有声破裂音の知覚に関しては,母方言に有声・無声の対立のない北方方言話者にとって困難である。これは,母方言からの負の転移が原因であると思われる。
  3. 無声破裂音の知覚に関しては,母方言に有声・無声の対立のある上海方言話者にとって必ずしも有利ではなく,北方方言話者との間に,知覚の差異が見られない。日本語の語中無声破裂音が中国語の無気音と類似しているため,習得が困難であろうと考えられる。
  4. 子音種による知覚の差異も見られた。無声破裂音の正聴率順は/k/>/t/>/p/であるが,有声破裂音の正聴率順は/b/>/d/>/g/になっている。VOT値が知覚する際のキューになるのではないかと考える。

本研究では,以上の調査結果を踏まえた上で,1)母方言干渉,2)音声習得の普遍的特徴,という二つの観点から中国人初級学習者による日本語有声・無声破裂音の知覚習得に関して考察した。これらの結果を踏まえた上で,日本語音声教育現場に提言したいと考えている。

マフカモヴァ,サヨーラ

業績

修士論文:日本語の疑問文の文末イントネーション―ロシア語を母語とする日本語学習者の母語干渉を中心に

ロシアとNIS諸国の日本語教育は主として文法,読解,翻訳などを重視したもので,発音の授業はもとより,教室活動においても発音指導は殆ど行われていない。また,日本人教師が少ないため多くの授業は現地の教師によって行われる。さらに,学習者がテレビ番組,ドラマ,漫画や日本人との実際コミュニケーション等といった日本語の生の会話と接する機会は非常に少ない。このような背景を持つ学習者は,日本語能力がいくら高くても日本語のアクセントとイントネーションには母語干渉が見られ,ロシア語訛りが強く感じられる学習者が多い。

本研究の第一の目的は,ロシア語母語話者の日本語発話の疑問文文末イントネーションに見られる母語干渉を明らかにすることである(調査1)。そこで,誤用の原因が母語干渉にあるか,言語の普遍性にあるか,それとも学習者の個人差にあるかについて検討を行った。

次に,学習者による文末イントネーションが日本人のものと異なる場合,日本人の聞き手が発話の理解に支障を来たすか否か,つまり誤用のイントネーションによって学習者が意図しない表現意図や心的態度が伝わり,日本人の相手に誤解される可能性があるかを調べた(調査2)。

最後に,学習者の母語干渉の傾向を考慮に入れ,ロシア語母語話者に日本語の疑問文の文末イントネーションをより効果的に指導する方法を提案した。