研究内容・成果

「文章」と「談話」は,それぞれ,日本語の書き言葉と話し言葉における最大にして最も具体的な言語単位です。

20世紀後半に発展した「文章論」や「談話研究」の分野では,音韻・語彙・文法等の規則を踏まえて,さらに,コミュニケーションの唯一の実現形態としての生きた日本語のしくみや働きを分析する方法について研究します。

また,日本語教育の教材開発や教案作成,教授法,授業分析等に,「文章・談話論」の知見を応用する可能性を検討します。

佐久間まゆみの研究テーマ:「文章論」「文体論」「談話論」

研究の概要と特色

「文章論」と「談話論」は,それぞれ,日本語の書き言葉と話し言葉の最大の言語単位である「文章」と「談話」を研究対象として,それぞれの表現と理解のしくみとはたらきを解明する分野である。

日本語の文章に関しては,かつては,修辞学や作文教育等として扱われてきたが,20世紀後半の言語学の研究史的展開の必然として,話し言葉の「談話」を含む,「文」を越える単位への関心が高まってきた。わが国では,文体論や文章心理学に遅れて,1950年に時枝誠記博士が「文法論」の一部門としての「文章論」を提唱し,爾来,国語学における「文章・文体」の分野の研究がなされてきたが,欧米の言語学の「談話(ディスコース)」や「テクスト」,「語用論」等の研究が入って,「文章・談話」として併記される分野が樹立されるようになった。現在の文章・談話研究の隆盛は,コミュニケーション能力を重視する語学教育や言語情報処理,社会言語学,認知科学等の関連領域からの要請を受けたものである。

文章論

日本語の「文章論」の主要な研究課題は,文章を構成する複数の文の間に見られる意味の「つながり」と「まとまり」を解明することにある。「文・発話のつながり」は,文章・談話の前後に隣接する二文間や文章・談話の内部に存する文脈・話脈の意味を分析する「文・発話の連接・連鎖論」,「文・発話のまとまり」は,一つの話題として統一された文・発話の集合統一体を分析する「文章・談話統括論」において,それぞれ扱われることになる。

文章の多重で複合した意味の関係を分析するには,文章の構成要素として,書き手の恣意的な改行一字下げの表記を目印とする「段落」によるのではなく,内容上の一まとまりの話題を表す,他とは相対的に区分される「文段」という意味的な言語単位を新たに設ける必要がある。文と文章の中間にある「文段」は,「中心文」により統括された一つの話題のまとまりをあらわす文集合からなるが,種々のジャンルの文章の規模に応じた大小様々な「文段」の多重構造を解明することが,緊急の課題となっている。

文体論

また,文章論に先行する「文体論」では,主として,文学作品に対する読者の文体印象を種々の「文体因子」から把握し,文章の表現特性の類型的側面と個性的側面を記述する。以前は,語や文等のミクロ・レベルの言語形式に分割して分析していたが,近年は,段落や文章構成等のマクロ・ノベルの表現特性の総合化を図り,新たに,話し言葉の談話の「話体」に関する解明もなされつつある。特定の作家や作品を扱う個別的文体論はさておき,時代・ジャンル・位相等に基づく表現特性を論じる類型的文体論は,文章論と重複する面もあり,意味論・談話分析・語用論等にも関連する興味深い課題が山積しており,「談話論」との位置づけにおいても,今後発展する可能性の大なる領域だといえよう。

談話論

一方,「談話論」は,わが国では,方言研究や言語生活・言語行動・待遇表現の研究と重複する形で1950年代より行われ,「話し言葉」の研究が次第に「社会言語学」として集大成されてきたが,「談話分析」,「談話文法」,「談話研究」という名称が用いられるようになったのは,1970年代以降,欧米の「ディスコース (discourse)」,「テクスト (text)」,「語用論 (pragmatics)」等の研究の流れを汲む研究が入ってからのことである。

以上の研究の流れを受け,1990年代になり,「文章・談話」と併記する研究領域を提唱し,2000年代に入り,日本語学における「文章・談話論」という研究部門を,日本語教育学の基礎科学との関連で,設定するに至った。早稲田大学大学院日本語教育研究科における「文章・談話論」という研究指導および理論科目の設置は,こうした文章・談話研究の史的展開の方向性に先鞭をつけるものとして位置づけられる。

関心ある研究課題

1. 段落の区分原理と中心文の「段」統括機能の分析

現代日本語の「段落」の本質を解明するべく,古今東西の段落論を調べ,また,改行を伏せた各種文章に対する読み手の段落意識調査をして,区分原理として意味的統一体の「文段」が認知されている事実を確かめた。原文の改行と必ずしも一致しない多くの読み手に一致する段落区分は,内容・形式面の特徴を示す意味的統一体としての文のまとまりを認知したものである。米国と日本で同趣旨の段落調査を行った結果,文段(パラグラフ)の中心文(トピック・センテンス)によって統括された文のまとまりを示す形態的指標の可能性が確認された。

2. 接続・指示・提題・叙述・反復・省略表現による文章の全体構造の分析

文章の全体的構造を分析するために,文章の成分としての高次の「段」を認定するための基準として,内容上の話題の大小のまとまりのみならず,文脈展開機能を有する各種の言語形式が形態的指標となっていることを,文章・談話の構造分析を通して解明しつつある。

特に,段の形態的指標となる言語形式は,中心文の統括機能の形成に関与する傾向がある。

3. 要約文の表現類型と評価基準に基づく要約規則の解明

文章の構造類型を検証するために,複数の原文の約4分の1の文字数で要約文を書かせる調査をして,原文と要約文の文章構造の異同をとらえた。日本人と外国人の要約文に対する国語教師と日本語教師の評価調査から,要約文の表現類型と評価基準に相関のあることを確かめた。日本人の要約文には,原文の中心文や主題文が残存しており,原文の文章構造類型が忠実に反映されると,評価が高くなるという傾向がある。原文と要約文の構造分析に基づく要約規則は,要約文の評価基準と要約原理に通じるという仮説が検証された。

4. 日本語の文章型と談話型の解明

要約文の研究を通して,日本語には主題文の統括する中心段の文章中の出現位置と頻度による6種の文章型(「文章構造類型」の略)があることが確認され,文章型は形態的指標による構造分析が可能だという見通しを得たが,日本語の談話型(「談話構造類型」の略)に関しては,発話機能や発話連鎖,話段等の分析がまだ十分ではないため,様々なジャンルの種々の談話の全体的構造の類型を分類するまでには至っていない。

何よりもまず,談話資料の収集と文字化資料や音声・音韻データの解析,非言語行動の記述等の基礎的調査が不可欠である。また,談話型のモデルの設計と,その分析観点を確定し,文章型との異同を比較検討する必要もあるだろう。さらに,「話体」との関連で,談話の一般的・個別的側面の表現特性を記述し,談話のジャンルの分類を確定することも忘れてはなるまい。

日本語の文章型と談話型を分析するための「段(文段・話段)」の統括機能による多重構造の分析と記述も重要な研究課題である。

研究方法と心構え

現代語の文章・談話を研究するには,何よりもまず,日夜生産され続けている膨大な言語データの宝庫から,各自の研究目的に応じた良質かつ適量の分析用の資料を処理する技能を磨く必要がある。言語・非言語の情報処理の方法を身につけ,各自の問題意識をより鮮明にしていくための仮説や分析の「切り口」を見出す上での先行研究に基づく知識と,言葉と人間・社会に対する鋭い感性を養うことである。

談話分析,語用論,音声・音韻論,文字・書記論,語彙論・文法論・意味論等の諸分野の研究と重なる課題も多々あるので,研究の視界を十分広く取って,柔軟な姿勢で,虚心に収集したデータに対峙し,判断力と忍耐力をもって分析に当たることが肝要である。

集合写真
いずれも,鴨川セミナーハウスのゼミ合宿(2007年3月)より。

研究会

製作中