「文章・談話論」への誘い ― 佐久間 まゆみ

生きた日本語のコミュニケーションの研究と教育 ― 日本語研究の最先端へ

「文章」は書き言葉,そして,「談話」は話し言葉の,それぞれ,最も大きく,最も具体的な言語の単位で,言語によるコミュニケーションの唯一の実現形態でもあります。日本語の文章と談話のしくみやはたらきを解明する研究は,20世紀半ばに,国語教育や日本語教育の現場からの要請を受けて着手され,文学や心理学・社会学・哲学・認知科学等の隣接諸分野と連携する「ハイブリッド・サイエンス」として,一層盛んになりつつある日本語研究の最も新しい領域です。

国語学の「文章論」と言語学の「談話分析」「テクスト言語学」,「語用論」等を,「文を越える単位」の研究としてまとめ,より柔軟で,ダイナミックな方法論によって,日本語のコミュニケーションの真のすがたをとらえることを目指しています。

文章・談話論研究とは

二十一世紀の「日本語学」のみならず,新しく構築されつつある「日本語教育学」の基礎科学としても位置づけられる「文章・談話論」は,生きた日本語の表現と理解の方法とその教え方について,種々の日本語の文章・談話の資料を収集し,様々な観点から統合的に分析する研究分野です。

文章・談話を構成する音声・音韻,文字・書記,語彙・意味,文法等の基礎的知識とともに,広く,かつ高度な言語情報の処理能力と柔軟な思考力をもって取り組むことが期待されます。日本語の未知の課題への強い探究心と,地道にデータを収集・分析していく忍耐力とを備えた「日本語大好き」な人なら,その第一の適性はあるといえるでしょう。加えて,様々な目的から外国語として日本語を習得しようとする人たちをより効率よく支援したいという「やさしさ」が必要でしょう。

たとえば「要約力」

日本語のスタディ・スキルの一つでもある「要約力」に関する研究を一例とすれば,以上のことがよくおわかりいただけることでしょう。読んだり,聞いたりして理解した日本語の主な内容を,短くまとめて書いたり,述べたりして表現し,双方向のコミュニケーションを実現することは,日本語母語話者にとっても,かなり高度な情報処理能力ですが,日本語学習者には,想像以上に困難で,緊張を強いられる重要な学習項目の一つとなっています。しかし,日本語の文章・談話の表現と理解のメカニズムは,今もなお,十分に解明されているとはいえない現状です。それは,市販の日本語の要約ソフトなどの,実用にはほど遠いお粗末な実態からも,明らかでしょう。

そこで,日本語の母語話者や学習者たちを対象とした要約調査や,日本語教師による要約文の評価調査を実施する必要に迫られ,より多くの様々な種類の要約データを収集・処理するために,多くの人々の時間と労力を奪う課題が課せられるのですが,その際,何とかして,学習者の日本語能力を向上させることに貢献したいものだという,切実な動機のみが複雑で困難な研究活動を遂行する上での支えになるのです。

当研究室を目指す方へ

文章・談話論の分野には,まだまだわからない日本語のコミュニケーションに関する未開拓の課題が山積しており,その実態の把握と,それに基づく教材作り,さらに,その効果的な教授法の開発などが課されています。目先のもの珍しさや即戦力となる安易な「日本語教育能力」にとらわれない,冷静な分析力と,同時に,大胆な構想力のある独創性に富んだ研究を志すような人が,わが「文章・談話」研究室における理想のタイプの大学院生なのではないかと思います。