花籠部屋・荒汐部屋 見学レポート

1. 見学日程

(1)見学月日

2004年6月2日

(2)当日のスケジュール

  • 8:00 両国駅集合
  • 8:30 花籠部屋到着
  • 11:00 移動
  • 11:30 荒汐部屋到着
  • 13:30 荒汐部屋退出

2. 訪問した部屋

(1)荒汐部屋(中央区日本橋浜町2-47-2)

(1) 部屋の歴史

宮崎研究室は荒汐部屋を応援します。親方は,時津風部屋(大関豊山)の小結大豊(本名鈴木栄二),新潟県出身,生年月日は昭和30年3月29日。昭和57年5月場所入幕,小結を務めた。62年1月場所中引退,荒汐を襲名した。しばらくは時津風部屋付きの親方だったが,師匠の時津風が平成14年8月限りで定年となるのに先立ち,同年6月1日付けで弟子一人を連れて独立した(相撲部屋小史より引用)。

(2)部屋の力士(番付は平成16年7月場所)

三段目54枚目苍國来,序二段121枚目安里,序ノ口東3枚目内海,序ノ口西35枚目藤岡(日本相撲協会より

(2)花籠部屋(墨田区緑3-21-10)

(1) 部屋の歴史

伝統ある花篭部屋の看板親方は元関脇太寿山(本名坂爪忠明),新潟県出身,生年月日は昭和34年4月8日。平成4年10月1日,旧二子山部屋から5番目の分家として,山梨県上野原町に部屋を再興。平成8年12月現在地に移転した。花籠部屋が名門となったのは,第32代横綱玉錦の弟子大ノ海が,昭和27年に引退後初代若乃花を弟子として,ニ所ノ関部屋から分家独立したことに始まり,若乃花,若秩父,大豪を育てた第一期黄金時代と,輪島,魁傑,荒勢による第二期黄金時代を築いたことによる。年寄名跡としては,三杉磯,大ノ海,輪島,花乃湖らの後を継承し,現親方で15代目となる。(花籠タニマチ倶楽部より

(2)部屋の力士(番付は平成16年7月場所)

幕下東28枚目力龍,幕下西30枚目光龍,三段目西28枚目太萌山,三段目西42枚目龍樹山,三段目西68枚目睦龍山,三段目東79枚目若寿,序二段西9枚目鷹龍,序二段西75枚目高橋山,序ノ口東15枚目横田,序ノ口西19枚目河合,序ノ口西21枚目若海力(日本相撲協会より

3.学生レポート

(1)朝稽古

8時半前に花籠部屋へ着くと,荒汐親方自らお出迎えくださり,その後土俵横の板の間で,稽古を途中から見学させていただいた。土俵ではこの部屋の主である花籠親方と荒汐親方,力士達10名が練習に励んでいた。すぐに,身体と身体がぶつかり合う激しい音に気づき,しばらく見ていると,稽古の進め方が少しずつ理解できるようになった。

「胸を貸す」という言葉の語源がまさにそこにあった。先輩力士の胸に思いっきりぶつかっていき,稽古をつけてもらう。ぶつかっていく時の,あの音。うめき声。転がされ,たたきつけられた力士の全身での呼吸。親方が檄を飛ばしている様子は,見ている側も思わず身体に力が入るほどであったが,その後親方はさりげなく力士のところに行き,親方というより父親の表情になり,「気合だ!」「後もう少し!」「ここ(心:心臓のところを指して)を強く持て!」と言葉をかけていらっしゃった。一方,土俵の周りでは,力士達が思い思いにエキスパンダーやダンベルで筋肉を鍛えたり,ひたすら一人で立会いを繰り返したりし,親方や兄弟子の指導の機会を待っている。土俵には厳粛な秩序があって上下関係は誰の目から見ても明らかなものであったが,親方同様,兄弟子たちも,自分の時間を割いて下の力士の体勢を整えてくれたり,アドバイスをしたりしながらきちんと面倒を見ていた。また,稽古の際にも,もっと本気でぶつかってくるように何度も挑発したりする姿から,力士達が厳しさとやさしさを兼ね備えていることがよく分かった。

花籠部屋前で力士達と稽古に励んでいるからには,いずれは名の知れた幕内力士になりたいはずである。廃業していく力士は数え切れないほどいるだろう。ピラミッドの頂点を目指すための稽古とは,本当に厳しく地道なものだと思った。

稽古場での日本語について少し述べると,相撲の専門用語,話し方の特徴などのため,親方が力士たちにかける言葉を耳にしても,何を言っているのかはっきりと聞き取ることができなかった。しかしながら,力士たちは親方の言葉に鋭く反応しており,関わりの深さを感じた。外国人力士は,親方の言葉を理解しているのかどうか曖昧な場面も見られたが,他の力士らの助け(モンゴル語での通訳や,やさしい言葉による言い換え)によって対応していた。相手の言う言葉は聞き取れることはできても,その深い意図を理解するためには,稽古の積み重ねによる自分の経験が必要不可欠であると感じた。つまり,身体を通さなければ,相手の言葉を理解できないことが多々あり,今回は,そのような身体的活動と言葉の密接な関係を感じた。

朝稽古終了。ほっと一息。稽古を見せていただいたほんの一時間半に,単なる稽古風景を見ただけでなく,一人の力士の生き方やひいては人の人生の選択,そして特殊な環境下での言語習得についてまで,いろいろなことを考えさせられた。

(2)親方とおかみさん

神聖な土俵ちゃんこをいただく際,荒汐親方と同じテーブルにつかせていただいたので,思い切って何点か伺うことができた。

荒汐親方スペシャルちゃんこ作り相撲部屋のほとんどが墨田区にあるのに,どうして中央区で旗揚げされたのか伺ったところ,偶然相撲部屋に最適な物件がみつかったので内装リフォームだけですんだから,とのお答えをいただいた。前は呉服屋のビルだったようで,それを1階を土俵とお風呂場,2階を台所とちゃんこ場,3階を各自の部屋にしているとのことであった。4階と5階もあるが,まだそこまで整理の手が回らないとおっしゃっていた。私達が住む家を探すのとはわけが違う。将来さらに弟子が増えることもあるだろうし,何歩も先を見通す力がないと運営していけないだろうと強く感じた。中央区にあることで,区をあげて応援してもらっている,ともお話があった。ただし,銀座にもほど近くその物価たるや想像はつき,親方とおかみさんのご苦労が忍ばれた。

秘伝のスープを注ぐ 野菜はあとから加えますお話を伺う前に,荒汐部屋を特集したテレビ番組のビデオも見せていただいた。弟子を発掘して預かり育てていくこと,地方巡業の住居探しなど,部屋の維持のご苦労が簡潔に描かれていた。親方もおかみさんも笑って番組のコメントをされていたが,軽くおっしゃるだけに,それらのご苦労をいくつも乗り越えてこられたのだろうと,察せられた。

おかみさんに最初にお目にかかった際,あまりの華奢さと若さにお手伝いの方だろうと勘違いしてしまった。ご苦労を微塵も見せずに,朗らかにお話してくださるおかみさんは,女性としてもとても魅力的であった。多忙でいらっしゃるにも関わらず,笑顔で迎えてくださり,どんな質問にも気さくにお話してくださった。一番忙しい時間帯は,と尋ねたら,一時も休まる暇がない,ということだった。また,部屋を開いてから親方が病気で入院したり,経済的に苦しかったりと苦労が絶えなかったために,今日一日が無事に終わればいい,という毎日の繰り返しで今日まで来たのだという。それでも,おかみさんは楽しそうでからっと明るかった。さすが親方が会ってすぐ結婚を申し込んだだけの人だと思った。

(3)苍國来(そうこくらい)

苍國来と龍樹山朝稽古の苍國来は,鋭い眼差しで土俵を睨みながらひとり隅で立会いを繰り返していた。いよいよ彼のぶつかり稽古が始まると,花籠親方から厳しい声が度々飛んだ。レスリングの影響なのか,立会いはまだ先輩力士のようにはいかないが,粘りがあって足腰が強い力士であった。

稽古場では184cm・100キロの体は,それほど大きいという感じはしなかったが,思っていたより背は高く,全身筋肉質という感じであった。

荒汐部屋に戻ってきた苍國来は微かにベビーパウダーのやさしい香りがした。印象としては,内に秘めた強さを感じる穏やかな人であった。おかみさんは,苍國来に関して,「稽古の時は真剣で怖い顔をするけど,普段はとてもやさしくて,物静かなんですよ。」とおっしゃっていた。また,「自分も言いたいことがいろいろとあるだろうにねえ。」と,気にかけていらした。

日本語のコミュニケーションについて尋ねると,苍國来は聞くことに関してはほとんどわかるということだった。苍國来が日本語で祖国の話をしているところを聞いたが,イントネーションや話すスピードが親方に似ていて,来日して約1年だというのにとても自然だったのに驚いた。

苍國来ちゃんこが好物事前に,『月刊大相撲』の記事やインターネットで苍國来の背景情報を調べ,質問を用意したが,本人と会ってあまりの迫力に最初は言葉が出ない程であった。苍國来は自分の意志で,モンゴルにスカウトに行った親方に面会して来日したそうだが,責任感が非常に強そうで頑張っている姿が印象的であった。また,母国語としてのモンゴル語と,中国語,正式に勉強していないが日常会話で覚えた日本語を巧みに使いこなしている姿から,苍國来の言語センスが高いことがうかがえた。親方(お父さん)と優しいおかみさん(お母さん)との生活に感謝しつつ,生活そのものにも慣れてきているように見えた。性格が明るくて,笑顔が素敵な苍國来のこれからの活躍を期待したい。

(4)ちゃんこ

新弟子入門希望親方とおかみさんが作ってくださったちゃんこをご馳走になった。ちゃんこを作れる弟子がまだいないのだという。豚肉に大根,にんじん,厚揚げ,牛蒡,玉ねぎ,ほうれん草などが味噌味のスープに煮込まれていてとてもおいしかった。バラ肉を使っているにも関わらず脂っこくなかったのは,一度湯通ししてから鍋に入れているからだそうである。最後に冷凍うどんを入れてくださったのが,また格別においしかった。

炊飯器も力士サイズ聞いていたとおりちゃんこ鍋が大きく,食材を買うだけでも大変だと思ったが,自転車で近所に買出しに行くのだという。買出しは苍國来も手伝うのだそうだ。自宅でもあんなおいしい鍋を再現してみたいと思ったが,スープの素材を伺うのを忘れてしまった。またの機会にぜひ伺いたいものである。

苍國来の活躍を楽しみにしています。苍國来の活躍を楽しみにしています。