韓国外国語大学 授業報告

照山法元[研究紹介

2010年12月22日

1.はじめに

2008年9月に韓国外国語大学に赴任して,約2年半が経ちました。韓国外国語大学は,1954年の開校で,1961年に韓国で最初に日本語科が設置された大学です。キャンパスは,ソウルキャンパスとヨンインキャンパスとがあり,私はソウルキャンパスに所属しています。ソウルキャンパスはソウルの中心地から地下鉄で30分弱のところにあり,非常に便利の良いところにあります。昨年春,ソウルキャンパスの日本語科は東洋語大学日本語から日本語大学日本学部(韓国人教員10名・日本人教員4名,学生数は各学年約120名)へと昇格しました。この度のご報告では,まず,こちらに来て感じた,韓国外国語大学の学生の様子についてお話しし,その上で授業の様子や苦労している点,授業で心掛けている点などをご報告したいと思います。そして,最後に韓国での生活について簡単にご報告いたします。

2.学生の様子について

2.1.日本語能力

新入生の場合,入学してきた時点での日本語能力に大きな開きが見られます。日本で5年,10年生活した経験がある学生,中学生のころから学校で勉強して既に学習歴が5年を超える学生,マンガやアニメに興味を持ち独学した学生,そして,日本学部への入学が決まってから勉強を始める学生等など,日本語能力は実にさまざまです。他の多くの学校でも同じだと思いますが,特に新入生の第一学期の授業ではこのレベル差に苦労します。これは学生にとっても大変なプレッシャーになるようで,平日の夜や週末,さらには夏休みに学院(日本語学校や塾のようなところ)に通って熱心に日本語の勉強する学生もいます。

2.2.目標

毎学期オリエンテーションの時にアンケートをするのですが,「日本語を使って何がしたいですか」との問いに,「日常会話ができるようになりたい」「日本で旅行がしたい」というものから,「外交官になりたい」「通訳・翻訳家になりたい」「貿易会社で働きたい」「日本の企業で働きたい」「アナウンサー・記者になりたい」というものまでさまざまな答えが返ってきます。いずれにせよ,各自目標を持って勉強しているようです。

2.3.2年生から3年生にかけて

2年生から3年生の間は学生にとって大きなポイントになる時期のようです。ご存知のように,韓国では男子学生は兵役のため約2年間軍隊に行くのですが,多くの学生が2年生の勉強までを終えてから軍隊に行くようです。その後,兵役を終えて復学した学生の多くは,約2年間の勉強の中断やブランクに不安を持ち,「日本語はほとんど忘れてしまいました」と訴えてくる学生も珍しくありません。また,すぐに復学せずにワーキングホリデーを利用して日本で1年間生活した後,復学する学生もいます。不思議なことに女子学生がワーキングホリデーで日本へ行くのも2年生までの勉強を終えてからが多いと聞きます。1年生のときに日本語に自信がなく,授業(特に「会話」)を取らなかった学生が,ワーキングホリデーを利用して日本で生活し,日本語に自信をつけてから1年生の授業科目を履修するケースも多いです。

写真1:一番高い建物が本館で,大学のシンボル的存在です。写真1:一番高い建物が本館で,大学のシンボル的存在です。

2.4.不得意分野

日本語能力の高い学生が多いことは先にもお話ししましたが,彼らに苦手なことや難しいことは何かと尋ねると,「漢字」と答える学生が想像以上に多いことに驚かされます。学期始めの会話クラスのオリエンテーションの時にも「今学期は漢字の勉強を頑張ります」という学生が少なくありません。ですが,そのように言うだけあって一生懸命に漢字の練習をしています。

2.5.第2専攻の学生

中級の日本語会話のクラスには第2専攻として日本語を学んでいる学生のみのクラス(3年生以上が対象)があります。英語関連の学部や中国語学部,国際通商学科などの学生が多く参加していますが,日本語が第1専攻である学生に負けず劣らず,日本語能力の高いことに驚かされます。将来は,日本語も含め数ヶ国語を使って仕事がしたいのだそうです。

3.授業報告

私が担当する「初級日本語会話」(一年生対象)を中心に「中級日本語会話」(二年生対象)の授業の様子も交えてご報告したいと思います。

初級,中級とも会話のクラスでは韓国外国語大学で作成した教科書を使用することが決められています(『初級日本語会話』『中級日本語会話』)。授業は,一クラス定員20名,一コマ50分で2コマ通して行います。進度は大まかに言えば,この2コマで1課進むといったところです。

先にもお話ししましたが,韓国外国語大学の学生は入学時点での日本語学習歴も長く,熱心に勉強する学生が多いです。こちらの指示がなくても進んで勉強します。このような環境で,私はどのようにクラス活動を行えばいいか,赴任当初から考えさせられました。そのような中で考え,現在実践していることを2点ご報告いたします。

写真2:1年生の初級日本語会話のクラスの様子です。写真2:1年生の初級日本語会話のクラスの様子です。

3.1.授業報告(1)

まず,1点目は教科書を使用した会話の練習についてです。会話の授業・教科書と文法の授業・教科書はある程度内容がリンクしており,文法の授業で文法を韓国語で学んでから,会話のクラスで運用練習を行うといったスタイルをとっています。よく考えられたシステムだと思います。既習項目や知識があることもあり,会話の教科書にある練習問題は非常によくできます。そのような中で会話クラスにおいて私にどのような活動ができるかを考えました。現在は教科書の練習問題をより「会話」に近づけるために,練習問題+αという活動に取り組んでいます。練習問題+αというのは,学習者が既に学んだことや知っていることを利用しながら練習問題の前後のやりとりを学生達に考えてもらって会話を展開させていくという活動です。

このような活動は,川口先生がおっしゃる「会話の精緻化」を実践していることになるのだろうと思いますが,このような活動で,より「会話」に近づいていることはもちろんですが,学習者が自分達で考えて必要なやりとりを行っていること,そしてその結果ある程度長い会話ができるようになっていることを学習者自身が実感できるのではないかと思っています。教師によるモデルの提示だけではなく,自分達で考えている分,有効ではないかと思います。学習者もこれまでとは違う,新しい視点で会話の練習に取り組んでいるようです。このように会話の授業では自分で考えることを重視し,そのような活動になることを心掛けています。

もちろん,クラス内にはレベル差もありますので,最初からうまくいくとは限りませんし,日本に留学経験のある学生は初級クラスでは少々高度な表現を使う学生もいます。ただ,そのような時は,可能な範囲で説明した上で,「こんな言い方があるのか」「いい表現だな」と思ったら使ってくださいと言っています。これは,初級,中級のどのクラスでも言っています。クラスメートの発言に常に耳を傾け,いい表現があれば自分のモノにしてほしいと思っています。

3.2.授業報告(2)

2点目は,語彙学習についてです。ある初級会話のクラスで次のようなことがありました。教科書に初めて動詞が出てきた時のことです。その日は金曜日で,授業も終わりに近づいたころ,私が「週末は何をしますか」とある学生に問いかけました。すると,その学生は「試験を見ます」と答えました。「試験を見る?カンニングのこと?」と心の中で思いましたが,周りの学生の助けもあり,それが「試験を受ける」という意味だということがわかりました。私には韓国語の知識が全くありませんでしたので,非常に驚きました。しかし,このような時こそチャンスでもありますので,単語を連語単位で学ぶことの大切さを話し,それ以来他の初級クラスでもそのことを話した上で実践するようにしました。

中級のクラスでも,初出の単語や,割と易しい単語でも使い方を整理するために連語単位で学ぶことを勧めています。

写真3:1年生の初級日本語会話のクラスの様子です。上の写真2とは別のクラスです。写真3:1年生の初級日本語会話のクラスの様子です。上の写真2とは別のクラスです。

非常に真面目な学生たちですので,単語を覚える勉強もよくします。ですが,単語を連語単位で覚えるということは初めてのようでした。学生たちは,「そんな勉強方法があるのか」という感じで,連語単位による語彙学習に興味を持ったように見えました。新しい勉強の方法や視点を示すことが大切だと改めて感じました。

最近では,言いたいことがうまく表現できず,「先生,○○(ある名詞)はどんな動詞と使いますか」と聞いてくる学生も出てくるようになりました。今後は連語による学習を一人でもできるように,自習の方法も示していく必要があると思っています。

4.おわりに

写真4:授賞式ではこちらをいただきました。写真4:授賞式ではこちらをいただきました。

今回,韓国外国語大学に赴任して感じた学生の様子,そして授業で心掛けている点についてご報告いたしました。こちらの学生は目標も高く,教師が特に指示しなくても進んで熱心に勉強します。そのような学生が多いクラスで,どのようにすればよりよいクラス活動が実践できるのか,本当に悩んできました。現在もいろいろと試しながらクラスに臨んでいますが,勉強する上での新しい視点や学習方法,そして自習の方法などを学生に示していくことが重要なのではないかと感じています。

昨年,韓国外国語大学から「2008年度韓国外国語大学講義賞」という賞をいただきました。これは,学生達による講義評価の中で最も良い評価を受けた教員に与えられる賞だということで,2008年度は私も含め13人がこの賞をいただきました。励みにもなりましたし,責任感を持ってここまでやって来られたと思っています。早稲田大学大学院日本語教育研究科で多くのことを教えてくださった先生方,そして共に学んだ院生の皆さまに深く感謝しております。本当にありがとうございます。

写真5「外国人アパート」です。私の部屋の窓から撮りました。昨年はよく雪が降りました。写真5「外国人アパート」です。私の部屋の窓から撮りました。昨年はよく雪が降りました。

以上で,授業報告を終わらせていただきますが,こちらでの生活について少しだけお話しさせていただきます。2008年韓国へは私と妻,息子(当時1歳半)の3人で参りました。私達は大学が提供してくださった「外国人アパート」の一室に住んでいます。これは韓国外国語大学の外国人教員のためのアパートで,現在は50家族ほどが生活していると思います。日本人家族は私達だけです。このアパート内での共通語は英語です。そして,そこから一歩出ると韓国語,大学に着くと日本語といった環境で生活しています。これはなかなか経験できない,大変貴重な経験をさせていただいていると思っています。

写真6 「そら」という日本学部の学生達のサークルがあります。これは彼らの公演会での一枚です。j-POPを歌ったり踊ったりしています。熱心に練習しているので上手です。サークルの活動も盛んです。写真6 「そら」という日本学部の学生達のサークルがあります。これは彼らの公演会での一枚です。j-POPを歌ったり踊ったりしています。熱心に練習しているので上手です。サークルの活動も盛んです。

韓国語の勉強のほうは,大学で週一回外国人教員のために韓国語講座を開いてくださっているので,それに参加したりして勉強しています。妻のほうは,地域の住民センターで韓国語を勉強しています。そこには韓国料理教室もあって,それにも参加して楽しんでいるようです。息子は,こちらで保育園に通っていますので,そちらの先生や他の子供達と遊びながら韓国語を覚えて帰って来ます。家族で一番韓国語がわかっているかもしれません。お話などでは聞いていましたが,子供の言語習得の速さには本当に驚かされました。言葉の面では,やはり苦労することも多少はありますが,ここまで大きなトラブルもなく楽しく生活することができました。皆さんに感謝しています。それでは,以上で授業報告とこちらでの生活についてのご報告を終わります。