書評
バトラー後藤裕子(2003).『多言語社会の言語文化教育 ― 英語を第二言語とする子どもへのアメリカ人教師たちの取り組み』くろしお出版.
本書は,アメリカ,カリフォルニア州における移民教育を題材に,アメリカの学校における「英語を母語としない」児童生徒にどのような教育を行っていくか,カリフォルニアの学校に通う移民児童生徒の置かれた現状,子どもの言語習得やバイリンガリズム理論,話しことば及び読み書き能力の発達理論と具体的な教室での実践,移民教育に伴う様々な「文化」の問題,教科教育の問題,そして言語政策の問題を踏まえ,多角的な観点から論じている。
本書の大きな特徴は,移民児童生徒教育に関わる現場のアメリカ人教師の「生の声」と現場での具体事例が豊富に紹介され,検討されている点である。どれもアメリカの学校で起きた事例であるが,日本国内の「日本語を母語としない」児童生徒の教育現場で起きている問題と重なる点があまりにも多いことに気付く。すなわち,本書は,「日本語教育」「英語教育」といった枠を超えた「年少者第二言語教育」というフィールドで,年少者日本語教育の中で日々私たちが抱えている問題を捉えなおす「参照点」となる一冊である。
本書の中で筆者も述べている通り,アメリカにおける移民教育もまだ課題が残され,アメリカと日本では,第二言語で学ぶ児童生徒を受け入れる社会的文脈も異なる。このため,両国の教育を単純に比較し,本書で述べられた施策や教育実践を全て「優れたもの」として日本の教育に取り入れるには限界がある。しかし,本書を通じて,日本国内の年少者JSL教育のあり方を「内省」し,実践を展開していく上で,多くの示唆を得られるだろう。(齋藤 恵)