書評

戴エイカ(1999).『多文化主義とディアスポラ』明石書店.

本書の目的は多文化主義・ディアスポラ・ハイブリディティという3つの概念を中心にして,地球化時代のエスニシティのあり方を探っていくものであるとしている。特に,国民国家体制や透明な文化的アイデンティティが生み出してきた阻害や差別構造を克服していくための戦略としてこの3つの概念はどのような可能性を持っているのか,ということに焦点が当てられている。また同時に3つの概念がそれぞれどのような問題を含んでいるのかということも考えている。

本書は全4章から成り立っており,大きく二つに分けることができる。まず前半の第1章から第3章では,エスニシティやネーション,多文化主義などの概念をそれぞれ検討し,その上でエスニシティやナショナリティに関わる問題を考えている。そして多文化主義の限界を乗り越える戦略としてディアスポラとハイブリディティという概念を考察している。後半の第4章はサンフランシスコに移住し,そこでのディアスポラ経験をもつ12人の個人の事例である。ここでは彼らの生の声が取り上げられており,前半で論じられてきた理論や概念を具体的に個人と結びつけている。

本書のように,12人もの実際にディアスポラを経験した人たちが「語り手」として声を寄せている本はまだまだ非常に少なく,本書では様々なディアスポラ経験を持つ人の体験が理論と結びつけて取り上げられている点が非常に興味深い。本書は,今まさにディアスポラを経験しているJSL児童・生徒と関わっている私たちが,彼らのアイデンティティをどう捉えたらよいのか,どう考えていったらいいのかということを考える際に非常に参考になるであろう。(相馬森佳奈)