書評
縫部義憲 (1999) 『入国児童のための日本語教育』スリーエーネットワーク
本書は,日本国内におけるJSL児童の受け入れ状況とその対応についてまとめたものである。特に入国児童について述べられているが,帰国児童や帰国子女,国際結婚による児童,入国生徒など,JSL児童生徒一般について当てはまる部分は多い。内容は,JSL児童の受け入れにおける現状,対応から指導法,カリキュラム案の提示,評価方法と多岐にわたるが,実際の現場からの問題提起と理論的な分析がなされており,実践と理論の両方を学ぶことができる。また,入国児童の受け入れに伴う様々な問題群を,入国児童を受け入れる学校行政や指導・支援にあたる日本語指導者,入国児童,それぞれの立場・視点から挙げられた具体的な事例に基づき整理・分析している点がとても興味深い。さらに,入国児童の日本語教育には,日本語習得の問題以外にも子どものアイデンティティの問題,母語保持の問題,認知発達に関わる問題など,言語教育以外の他領域の問題も大きく関わってくることを指摘しており,年少者という発達の過程にいる学習者の日本語教育が成人の学習者のそれとは大きく異なることを改めて実感させられる。入国児童の受け入れに対する行政の対応,制度の不備についても言及されており,行政への問題提起もされている。
ただし,言語能力にBICSとCALPの二つの側面があるというCumminsの理論の解釈については,BICSシラバスを開発したり,教科の用語や言い回しを「学習日本語(CALP)」として扱っている点など,BICSとCALPを言語能力の側面というよりむしろ,言語項目の側面として分けて扱っている点に疑問が残る。また,日本語指導のための様々な提案がなされているが,全体としてどのような言語能力を育成していく必要があるのかという議論が不足しているように感じられる。
JSL児童の入国背景,受け入れ状況,現場の声,日本語指導の方法と多岐にわたるテーマを扱っている点で,現在JSL児童に関わっている者,これから関わる者にとっては,年少者日本語教育の入門書として最適である。また,年少者日本語教育の基本理論だけでなく,認知心理学などの関係他領域の分野の理論も多く扱われている点からも,ぜひ読んでおきたい一冊である。(武蔵祐子)