書評
内田伸子(1999)『発達心理学 ことばの獲得と教育』岩波書店
子どもへの教育を考える上ではずせない視点は「発達」である。本書は,発達心理学(人間が発生してから死ぬまでの生涯発達の過程で,様々な機能―認知,言語,社会性,感情,運動など―がどのような過程を経て変化・展開・衰退していくかについて知ろうとする研究分野)の中の,特に子どもの言語発達・認知発達過程に関する分析を行い,さらにその過程に対する効果的な教育・援助の方法についての方策を探ろうとするものである。
筆者は,文化・文脈依存説の発達観(同一の環境要因や生物学的要因は,それらが働く歴史や文化に埋め込まれた特定の文脈しだいで異なった発達をもたらす)に立ち,言語獲得を人間化の基盤と位置づけている。言語は自分自身を表現し,社会で生活するための基礎であり,考え方や考えの中身を学ぶことの基礎になる。言語獲得による人間の知の変化を,8つの言語諸相(象徴機能の成立,ことばの獲得,会話活動の発達,第2言語学習,言語が遅滞するとき,想像力の発達,読み書き能力の獲得,書くことと認識)から分析し,人間発達への理解を深めるとともに,その発達を援助し促進するための条件について考察を加えている。
本書において,言語発達の各諸相分析の際に出された知見には,年少者への日本語教育を考える上で参考となるものが数多く含まれている。言語獲得のメカニズム,ディスコース(談話)構造の異なる文化への適応問題,言語獲得の臨界期,異言語文化への適応問題,言語遅滞,「物語る」ことによる創造的想像力の広がり,考える手段としての「読み書き能力」などの諸問題に対する認知科学的見地(子どもの思考や学習,記憶や問題解決など人間の心のメカニズムや心の中で起こっている情報処理過程について解明しようとするもの)からの考察は,日本語を母語としない児童・生徒のつまずきの原因がどこにあるのか,彼らの認知発達を促すためにはどうすればいいのかなど,年少者日本語教育が持つ問題点について,多くの見方・考え方を提示してくれる。(森沢小百合)