書評

佐藤郡衛(2001).『国際理解教育 ― 多文化共生社会の学校づくり』明石書店.

本書は,学校で国際化のための教育として実践されている国際理解教育,海外・帰国子女教育,外国人児童生徒教育を三つの柱にし,それらをどのように今後再構成していくかというテーマを,著者が現段階でまとめて示したものである。第一部では国際理解教育の理念の確立が不可欠であることから,国際理解教育の方向性を「多元的なアイデンティティ」の形成に求め,国際理解教育の実践をどのように進めるかを総合的な学習に焦点を当てて検討している。第二部ではロス・アンジェルスに住む日本人の子どもの教育に関する調査や「オリエンタリズム」に陥る帰国子女教育の実態を挙げ,共生をキーワードにしながら,海外子女教育と帰国子女教育の新たな動きと今後の教育のあり方について検討している。第三部では,日本に住むニューカマーの子どもたちにおける異文化適応の実態と,学校における多文化共生の取り組みの事例と可能性,外国人の子どものための学習保障とそのためのカリキュラム開発についての具体的な提案,母語教育における学校・ボランティア・行政の多元的なネットワークの構築の可能性と課題を検討している。

筆者は全体を通し,日本型教育システムを告発するだけではなく,日本の学校で展開されている広義の国際理解教育の実践から新しい教育の潮流を読み取りたいと考え,かなり踏み込んだ教育の議論を展開したと述べている。しかし,年少者の日本語教育の視点から本書を読む場合,確かに実態をもとに議論が展開されてはいるが,その解決策においてはまだ実践的であるというよりはむしろ理想論に近い。また,時代とともに常に変化していく国際理解教育は,子どもの思考の発達を「橋渡し」として完結するのではなく,「足場」となるきっかけとして継続することが重要なのではないか。 (坂田麗子)