書評
岡本夏木(1985)『ことばと発達』岩波書店
一言語環境で成長する日本人の子どもについて書かれた本書は,「子どもは成長の途上,二つのことばの獲得を求められる」という視点に立ち,その二つの重層的構造化という枠組みから,子どもの精神発達の問題を捉え直している。岡本の言う二つのことばとは,誕生から幼少期に獲得する「一次的ことば」と,学校生活とともに獲得する「二次的ことば」であり,本書では特に「二次的ことば」の獲得がもつ意味について,外言や内言の発達なども含めて述べられている。
年少者の日本語教育の視点から本書を読む場合,「一次的ことば」は「生活言語」の,「二次的ことば」は「学習言語」の基本的な性質に重ねて読むことができる。しかし,「二次的ことば」と「学習言語」は同じものではなく,「学習言語」は「二次的ことば」よりもより広い範囲を含むものであるということに注意する必要がある。
岡本は,子どもが「二次的ことば」を獲得するのは,「まことに苦しく困難なしごとである」と述べている。二言語環境で成長する子どもの場合,日本語の習得もこれに加わるため,「二次的ことば」の獲得は,さらに重層性を増し,「一層苦しく困難なしごと」となる。
年少者の日本語教育においても,学校生活を送る子どもにとっての「ことばとは何か」という問題は,看過することのできない大きな問題である。本書は,その問いに多くの示唆を与えてくれる。(東川祥子)