籔本容子のロンドン教育現場やぶにらみ

籔本容子(研究内容紹介

第1回

2008年3月まで,川崎市の公立小学校で学級担任をしていましたが,2008年6月から4年間,夫の転勤により,イギリスのロンドンに滞在することになりました。こうした経緯で滞在することになったロンドンですが,ここの街は,20年前にも旅行で何度か訪れたことのある街でした。そして,20年ぶりにこちらに来てとても驚いたことがあります。それは,20年前と比較し,さらに多国籍の街になっていたことです。地下鉄やバスに乗っていても,人種が様々で,そこで話されている言葉も多種多様だということです。私が,日本語を話しても,こうした多国籍の街では,みなさん全く気にしている様子もなく,自然に振舞うことができます。現在ロンドンでは,純粋なイギリス人の割合は数割と言われており,残りは,ビジネス等で私達のように一時的に転勤してきたものを含む他国からの移住者及びその子孫です。

こんなまちに住んでいます:St.John's Woodこうした現状からもわかる通り,現在ロンドンでは,語学教育や文化教育に大変力を入れています。特に,子ども達の言語教育や文化教育に力を入れていることが,こちらに来てまだ1年経ちませんが,実感として伝わってきます。(写真:こんなまちに住んでいます:St.John's Wood)

現在私は,ロンドンの公立小学校で,日本語と日本文化の授業をしています。ここでは,JFLとして行っているため,日本語というよりは,むしろ,日本の紹介を主に期待されており,こうしたことから,授業内容も文化紹介の内容に,少し日本語を導入する程度のものとなっています。また,Refugee Club(難民の子ども達の教育支援)にも参加させていただき,ここでも日本語と日本文化の授業をしています。地域に住む日本人の方々や,日本語を話すイギリス人の方も協力してくださり,毎回子ども達やその子ども達の保護者の方々と楽しく活動をしています。そこに参加している子ども達の多くは,日本にルーツを持たない子ども達ですが,なぜか,とても日本語や日本文化に興味を持っており,毎週そこに参加する親子が楽しみにしていてくれることが,私にとってとても励みになっています。ここイギリスでは,日本といえば,極東の小さな国というイメージのようですが,まだ行ったこともない,小さな国に興味を持って毎回喜んで活動してくださることをうれしく思います。また,そこの館長さんや先生方も,日本語,日本文化の実践に全面的に協力して下さっており,毎回授業作りに力が入ります。現在,小学校もRefugee Clubも教材作りを重視して実践しています。全くと言っていいほど日本語が話せない子ども達と,英語を得意としない私が,コミュニケーションをとる手段は,やはり,イギリスの共通語である英語です。こうした英語という言語に全面的に頼れない私にとって,教材はとても重要で,この教材を媒介として,毎回コミュニケーションを成立させています。また,もちろん,ジェスチャーもふんだんに使用しています。こうした実践を通して,日々,様々な驚きと発見があり,子ども達や地域の方から素晴らしい感動を与えてもらっています。

さらに,今年に入り,母国語教室のアシスタントをしています。ここに通ってくる子ども達は,日本にルーツをもつ子ども達です。母国語ということからもわかる通り,前述した小学校やRefugee Clubとは,全く異なった授業が展開されています。ここでの授業は,日本語を共通語としており,私がこれまで新宿区の小学校で実践研究してきたJSLの子ども達に行われてきた授業に近い形の授業が行われています。無理のないようにスモールステップで授業が組まれており,また,教材も豊富であり,体験を通して日本語が学習できるように授業が工夫されています。これらの3つの私の実践の続きは,また,次回に紹介したいと思います。

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