活動の報告

第10回 わにっ子ワンデイキャンプ報告

はじめに

2007年12月15日土曜日,第10回冬のわにっ子ワンデイキャンプが開催されました。31人の子ども達と,15人のボランティアが参加し,クリスマスパーティーのような楽しいキャンプとなりました。以下,その詳細をご報告いたします。

10回目のテーマは「手紙」で,コンセプトは引き続き「関係性作り」でした。私たちは多くのJSL児童・生徒と関わる中で,ことばは周囲の人々との関係性の中で自然に生まれていくということを強く感じるようになりました。きっかけは,わにっ子クラブメンバーの一人Wが関わっている児童Aでした。Aは約1年前,周囲のことに関心を示さず,感情の動きもほとんど見られませんでした。また自発的にことばを発することもまれでした。しかし,Wの支援が始まり,人が多く集まる日本語活動に参加するようになり,色々な人と関わっているうちに,意欲的に行動し,自然にことばを発するようになってきました。ここでWが感じたことは,「周囲との関係性」がAのことばの学びに大きく影響しているということでした。

そこで今回も引き続き「関係性作り」というコンセプトを打ち出し,冬のワンデイキャンプを企画しました。しかし,前回と大きく異なる点が2点あります。

  1. ボランティアの方々に企画の段階から参加してもらい,ボランティアの位置づけを「院生(企画者)/ボランティア(参加者)」ではなく「院生⇔ボランティア(協同体)」にする。
  2. 活動全体を結果重視にするのではなく,プロセス重視にする。

以下,その詳細について述べます。

第10回わにっ子ワンデイキャンプにおける大きな変化

1.ボランティアの位置づけ

今回のワンデイキャンプでもっとも大きな変化は「ボランティアの位置づけ」でした。ボランティアの方々に企画の段階から参加してもらい,ボランティアの位置づけを「院生(企画者)対ボランティア(参加者)」ではなく「院生⇔ボランティア(協同体)」にすることにこだわりました。前回までの活動では,院生/ボランティアという線引きによって,ワンデイキャンプの後で「何をしていいか解からなかった」という意見や,企画に対する批判が集まることが多く,「みなで何かを作り上げた」という感じがありませんでした。

そこで,企画段階からボランティアの方に参加していただくことで,院生とボランティアという壁を崩し,同じ土俵で一緒に一つのものを作り上げられるような素地作りを目指しました。自分たちからは出てこないアイディアを頂いたり,また自分たちにはなかった視点から批判をもらうことで企画を練り上げていくことができました。このプロセスをたどることで,企画側(子どもを迎え入れる側)としての一体感が生まれ,ひとりひとりがそれぞれの主体性を生かしながら動くことができたように思います。また,早い段階からのコンセプトの共通理解ができたことも,今回のワンデイキャンプの成功に一役かっているのではないかと考えています。

2.活動全体を結果重視にするのではなく,プロセス重視にする。

次に二点目の「活動全体を結果重視にするのではなく,プロセス重視にする。」という点について具体的にご説明します。

今回の活動の流れは以下のようなものでした。

  1. 全体活動『サンタさんから来た手紙』という本の読み聞かせ(話題提供)
    (森に住む動物たちにサンタから「プレゼントを配るのを手伝って欲しい」という手紙が届き,皆で手伝いをするという話。)
  2. 全体活動 (創作部分→グループ活動への導入)
    「サンタさんからのお礼の手紙」(プレゼント配りを手伝ってくれたことに対して)
    「みんなにもプレゼントをあげたい」という主旨。そこで,手紙をもらった動物たちに,何をもらったらいいのか決めて欲しいという活動例示および指示。
  3. グループ活動
    • (全体)動物グループ
    • (家族)はどんな家族なのか,家族背景を皆で考える
    • (個人)一人一人欲しいものを考える
    • (全体)どんなプレゼントがその家族にふさわしいかを話し合って決める。
      サンタさんにその旨を書いた簡単な手紙を書く。
    • (全体)家族の紹介の仕方,プレゼントを表すジェスチャーを練習する。
  4. 発表:家族紹介,どんなプレゼントにしたかの発表。プレゼントの発表は答えをただ提示するのではなく,ジェスチャーでそのものを表現し,他のグループの動物たちが当てる。
  5. グループ間での本物の手紙の交換。
    (自分の住所の書いてある本物の封筒を一枚持ち,グループ内でプレゼント交換のように手紙を交換する。受け取った手紙を実際に送ってみてください,という形で締める。)

これら一連の活動を見ていただければわかるかと思いますが,今回の活動は手紙を主軸とした総合的活動になっています。これは技能的な意味での「総合的活動」ではなく,様々な活動が交じり合い,そのプロセスを体験していくと言う意味で「総合的」であったということです。つまり,「何かを作らなければいけない」という点を大切にするのではなく,「何かを作る過程でどういった交流が生まれるか」という点に重点を置いていたのです。

活動後の感想の中には「活動全体を通してストーリーになっていたような感じがした」「家族という枠組みがあったので,“みんなで”何かを作ったと言う気持ちがした」,「プレゼントを一つに決めるときに,グループ内で活発な話し合いが行われた」「最後の発表が一方的なものではなく,やりとりになっていたのが良かった」といったものがありました。これらの意見は私たちがテーマとしていた「一過性の関係性が思い出の中で意味を持つようにしたい」という想いが実現した形として捉えてもいいのではないかと考えています。

最後に

楽しい思い出というのは繰り返し思い出され,自分の中に残っていくものだと私たちは考えています。「手紙」という具体物を持ち帰ることで,このキャンプで活動したこと,一緒に活動した仲間のことを何度も思い出して欲しい。そんな思いで最後の活動に手紙交換を取り入れました。しかし「関係性ができた」という結果を私たちは形として示すことはできません。「関係性」というのは人と人との間に存在し,いわば見えない糸のようなものでつながれているものだからです。ですが,今回の活動を通して,より具体的に「継続的な関係性」をつなぐきっかけを提供することができたのではないか,参加者にとってこの活動は一過性のものではないというメッセージは伝わったのではないだろうか,と私たちは考えています。

内なるものは目に見えない。だからこそ,今後も模索していきたい。

そう思っています。

第10回わにっ子ワンデイキャンプ コアスタッフ一同
(報告書まとめ:北見