書評『私も「移動する子ども」だった』
「言葉」「アイデンティティ」について,人として親として大きなアドバイスを得た1冊
近藤邦子(早稲田大学大学院日本語教育研究科2期生,会社員)
本書は,日本と韓国の2つの国籍を持つ娘の親として,気になっている課題である「言葉」「アイデンティティ」について大きなヒント,アドバイスをいただいた本でした。
私は「言葉の力」は大きいと思っております。複数の言語を知ることで世界が広がり,生きる上での選択肢も増えます。また,日本語世界の中でも業界や分野が変われば,考え方や専門用語などは異なることもあります。「言葉の力」で,より多くの人・ことを知り,自分の人生に反映できます。そこで,日本と韓国の国籍を持つ娘には2つの言語を身に付ける機会があるので,日本語も韓国語も出来てほしいと常々思っておりました。
しかし,「移動する子ども」であった皆さんのライフヒストリーから教えられたことは,主体的に「言葉」に関わらないと「言葉の力」は育たないということでした。複数の言語を身に付ける機会はあっても,身に付けようという動機を持つことができずに,機会を逃してしまったという経験談は,私自身も忘れかけていた子どもの立場を代弁しているように思えました。教え込みや強制では,本当の「言葉の力」は身につかないのではと。
「アイデンティティ」について,川上先生は「自分が思うことと他者が思うことによって形成される意識」と考えておられます。「移動する子ども」であった皆さんは,「自分が思うこと」と「他者が思うこと」との違いから起こるアイデンティティ・クライシスに向き合い,「自分らしさ」を肯定的に確立されておられます。そこで,「自分が思うこと」と「他者が思うこと」との違いについて考える経験は大きな財産になると思いました。そして,娘にも積極的に同様の経験をさせた方がよいのではと思いましたし,またその時親としてどうサポートするかの大きなヒントを,この本から得た気がします。
グローバル社会の今,本書は,「移動する子ども」だった方達の多様な経験を知ることにより,「移動」に関わる人のみならず誰にとっても自分と向き合う力,他人とのコミュニケーション力を高めるための参考書にもなるのではと思います。
『私も「移動する子ども」だった ― 異なる言語の間で育った子どもたちのライフストーリー』- 川上郁雄(編,著)
- 2010年5月10日,くろしお出版より刊 [紹介ページ]
- 定価:1,470円 [amazon.co.jpで購入する]
- 目次
- はじめに 「移動する子ども」とはどんな子どもか[抜粋 >]
- 第一部 幼少の頃,日本国外で暮らし,日本に来た「移動する子どもたち」
- セインカミュ(マルチ・タレント) 「外人」と呼ばれて,外人訛りのない日本語で返そうと思った
- 一青妙(女優・歯科医師) 台湾で中国語を話し,自分は台湾人と思っていた
- 華恵(作家) ニューヨークで英語の本を読みふけっていた
- 白倉キッサダー(社会人野球選手) 長野に着いたとき,「タイ語,禁止」と言われた
- ,6.響彬斗&響一真(大衆演芸一座) ブラジルで日本舞踊,和太鼓,三味線,歌を習っていた
- 第二部 幼少の頃から日本で暮らし,複数の言語の中で成長した「移動する子どもたち」
- コウケンテツ(料理研究家) 大阪で生まれ,大人が韓国語交じりの日本語を話すのを不思議に思った
- フィフィ(タレント) 名古屋で育ち,アラビア語を話さなくなった
- 長谷川アーリアジャスール(プロサッカー選手) 埼玉で生まれ,イラン語を「使えないハーフ」と語った
- NAM(音楽家・ラッパー) 神戸で生まれ,「ベトナム語は話さんといて」と親に言った
- 終章 「移動する子ども」だった大人たちからのメッセージ
- あとがき
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