私も「移動する子ども」だった
異なる言語の間で育った子どもたちのライフストーリー

国内,国外から続々寄せられる書評をご紹介(新着順)

子どもを追い込むのは周囲

この本を読んで,私は,海外を移動してきた子どもたちの複雑な心境と言語習得における心の葛藤の様子を初めて知り...

中村 洋子さん

埼玉県立川越女子高等学校

“移動する子どもだった”皆さんのたくましさに魅せられました

読み始めたら,とても面白く,一気に読みました。時には感心し,時には笑い,そして感動しました...

稲葉 美穂さん

オーストラリア,モナシュ大学博士課程院生

これからの学校とJSLの子どもたちを思う

欧米に比べ,人々が移動することが少なかった日本においては,日本語という共通語の習得は,当たり前感が強く...

高際 伊都子さん

渋谷教育学園渋谷中学高等学校副校長

一人一人の中の複言語・複文化を育てるという視点

本書のインタビューの一つ一つが興味深く,引き込まれました。そして,お一人お一人のライフストーリーの...

小間井 麗さん

INALCO:フランス国立東洋言語文化大学

移動する子どもは可哀想ではない,新たなものを受け入れたら更に自分が豊かになる

「移動する子ども」に関しては,どうしてもネガティブなイメージと結び付けられるが,本書は...

モラレス松原礼子さん

ブラジル,サンパウロ大学

多言語・多文化の子どもは特殊ではない

本書を読んで,日本にも今はいろいろな言語的,文化的バックグラウンドを持つ若い人が育っていることを...

中島さおりさん

パリ在住,翻訳家・エッセイスト

真の人間形成に役立つ日本語の教材作りに役立てたい

2011年,オーストラリアNSW州では,継承語としての日本語(Heritage Japanese)という選択科目が...

ニシムラ・パーク葉子さん

オーストラリア・ニューサウスウェールズ州教育訓練省

社会の偏見差別を変えていくのは個人である

コミュニケーションに使える英語を習いたいと要望がこれだけ多いにもかかわらず,今の学校...

ニシムラ・パーク葉子さん

オーストラリア・ニューサウスウェールズ州教育訓練省

コミュニケーションの本質を学べる「新しくて具体的な手引書」

「多言語,多文化の中で育った経験」を持つ10名のライフストーリーから得るものは多い...

柴田俊明さん

伊藤忠記念財団

言葉の獲得に必要なこと

今回,『私も「移動する子ども」だった』を読み,この10人が言葉を獲得してきた理由として一番...

片岡伸子さん

読書推進運動協議会

「言葉」「アイデンティティ」について,人として親として大きなアドバイスを得た1冊

本書は,日本と韓国の2つの国籍を持つ娘の親として,気になっている課題である「言葉」...

近藤邦子さん

当研究科2期生,会社員

だれもが「移動する子ども」なのかもしれない

川上さんが「移動する子ども」だった10人の若者にライフストーリーを語らせることでつむいできたことは,...

堀井惠子さん

武蔵野大学大学院

移動する子どもたちを応援します

本書を読んで,様々な事情で「移動する子どもだった」人たちのライフストーリーを身近に感じ,...

橋本博子さん

オーストラリア・モナシュ大学

伝えたい気持ちは言葉になる

私の夫はフィリピン人で,17年前からフィリピンで暮らしています。そして,...

小川二美子さん

フィリピン在住,会社員

「移動する子どもたち」みんなの思いを,たくさん受け止めました

日本で「移動する子ども」と関わって20年になります。本書を読んで,複数の言語と...

小川郁子さん

東京都中学校日本語学級教員

子どもたちが日本語を学ぶことに疑問を持った時に一緒に読みたいと思う

引き込まれるように10人の「移動する子ども」だった方のライフストーリを、一気に読んだ...

クレニン道上まどか さん

スイス:ベルン日本語教室・教師

いつか自分探しを始める息子にこの本を

今月1歳9カ月になる息子はニュージーランドと日本の2つの国籍,2つの名前を持っています。息子は...

木下直子 さん

明海大学総合教育センター

私も「移動する子ども」でした。そして現在は「移動する子ども」の母です。

本書が非常に興味深いのは,それぞれ異なったバックグラウンドを持つ10人の「移動する子ども」への...

岡部めぐみ さん

スイス:ルツェルン在住,スイスこども図書館館長

「移動する子ども」たちとともに ― 信頼しあえる関係を築くために

「移動する子ども」を教える教師でもあり,スウェーデンで複数言語の中で育ち思春期を向かえた...

松井久子 さん

スウェーデン:ストックホルム日本人補習学校 講師

「移動する子ども」のアイデンティティ ― 「お得な自分」に気づくとき

10年余前に日本人学校の教員としてアイルランドに渡り,現在当地で日本語教師として働く...

稲垣みどり さん

アイルランド在住 日本語教師

「移動する子ども」の母として思うこと

この本を読んでまず感じたのは,自分がカウンセリングを受けているような気持ちになった...

吉冨ゆかり さん

スイス:ルツェルン在住,子育てママ

「自分」を持っている子どもへ成長してほしい!

本書は,異なる言語体験をもつ10人の方々とのインタビューと,それに続く川上先生の分析...

渡辺未穂子さん

ニューヨーク在住,子育てママ

「周縁」にいる私達の,想像をこえた語り

私自身は「移動する子ども」であった経歴はない。私が立っている位置は,今も昔も...

山本絵美さん

オランダ:ハーグ・ロッテ補習校教師・ライデン大学大学院

「移動する子ども」それぞれの日本語史 ― ダイナミックでユニークな人生の足跡

この本には「移動する子ども」として日本語を習得している最中の学習者本人,またそれを子どもに...

中村栄子さん

(シドニー在住 日本語教師)

心に寄り添うことの大切さ

私は「移動する子ども」だったという表題に心引かれ興味を持ちました。以前,私は東京都の...

土屋康子さん

元東京都公立幼稚園教諭

新たな文化や社会の担い手としての「移動する子どもたち」の姿が浮き彫りに

大学で学校教員になる学生たちに外国にルーツを持つ子どもたちの話をしていますが,...

市瀬智紀さん

宮城教育大学

「移動する子どもたち」の“葛藤”

自己形成,つまり,アイデンティティの確立には何らかの言語文化集団への帰属は避けられず...

鎌田修さん

南山大学

ライフストーリー研究から学べること

この本は,「移動する子ども」だった「私たち」が語るライフストーリーの本である。...

由井紀久子さん

京都外国語大学

「せざるを得ない」から「する」へ

セイン・カミュやフィフィなど10人の「移動する子ども」だった若者たちが,自らが体験...

門倉正美さん

横浜国立大学留学生センター

アイデンティティとことばの学習――「能力」ではなく「意識」が「その人」を形成する

かつて「移動する子ども」だった私は今「移動する子ども」の親となって,ドイツで生活を...

三輪聖さん

ハレ・ヴィッテンベルク大学

「移動する子ども」の母親として子どもに期待すること

私は「移動する子ども」の母親です。子どもは,日本と韓国2つの国籍を持っています。日本で...

鴻野豊子さん

早稲田大学

全ては一人一人の声から始まる――「移動する子ども」だった私が「移動する子ども」の語りを読んで

私自身「移動する子ども」だった。親の転勤に伴われ,子ども時代を海外で過ごした。その...

山口悠希子さん

シンガポール国立大学

私も『移動する子ども』だった(ブログ『All about FIFI』より)

外国籍でありながら日本で育ってきた著名人による貴重な幼少期の体験談やアイデンティティー...

フィフィさん

タレント

響け!「移動する子どもたち」の声

“複数の言語との接触が同時に複数の「生き方」との接触だ”という帯の言葉に惹かれて...

嶋田和子さん

イーストウエスト日本語学校

私も「移動する子ども」を育ててきました

私も「移動する子ども」を育ててきました。この本を読んで真っ先に思ったのは,娘が小さい頃...

トムソン木下千尋さん

ニューサウスウェルズ大学

推薦のことば

10人の「移動する子ども」だった方々のお話は,複数の言語との接触が同時に複数の「生き方」...

西原鈴子さん

文化庁文化審議会会長,日本語教育学会元会長

アイデンティティとことばの学習――「能力」ではなく「意識」が「その人」を形成する

三輪聖(ドイツ/ハレ・ヴィッテンベルク大学)

かつて「移動する子ども」だった私は今「移動する子ども」の親となって,ドイツで生活をしている。ヨーロッパの教育現場に立つようになり,様々な「移動する子ども」を見ながら彼らの生きてきた背景がいかに多様で,複数の言語の位置づけが異なるものであるか,そして彼らを既存の固定的なカテゴリーにおさめることがいかに意味のないことであるかを目の当たりにしている。

しかし,その多様性というのは,彼らの様々なカテゴリー間の移動の事実であって,移動をしてきた個人の中の声までは見えなかった。複言語・複文化主義のヨーロッパで生きている「移動する子どもたち」は,果たしてどのように自己を形成しているのか,そして,どのように複数の言語を個人の中で位置づけ,使い分けているのかということに関しては個人の中にあるものとしてそれ以上は見ることができなかった。本書では,そういった「移動する子ども」たちの心の軌跡が赤裸々に語られている。衝撃だった。物理的な移動の軌跡だけでなく,移動した人間が様々な事にどのように向き合ってきたかという10人の心の軌跡が綴られているのだ。このような貴重なインタビューが実現され,まとめられた本書は実に示唆的である。

10人の方々の第二言語としての日本語習得過程も非常に興味深いが,日本国外で生活をする私は,やはり彼らがいわゆる「親の言語」とどのように向き合ってきたかという点に着目した。ここには様々な「葛藤」と「決断」があった。彼らのそういった経験談から教えられる事の中で特に印象的だったのは,アイデンティティと言語能力の関係である。つまり,言語能力が低いことがアイデンティティを混乱させるとは限らないということである。大切なのは「能力」ではなく,「意識」なのである。彼らは,社会で生きていく中で,他者からの評価と自己の評価とをすりあわせていくかのように,自己実現するべく自分の中で複数の言語を流動的に位置づけていっているのである。そういった「意識」が「その人」を形成していくのであろう。このように「移動」の中で自己対峙を続けてきた10人の方々は,物事の多様性・複雑性を認め,その上で自分の存在を位置づけ,自律して生きていくことができるようになっていると感じられた。

私も私の子どもも「移動」の中で生きているが,個人は,他者との関係性の中から形成されていくものであることを痛感している。現地の幼稚園に通う息子が既に複数の言語を自分なりに使い分け,自分とその言語との関係性は何かについて考えているようだ。そんな子どもの話を聞いて,私も私自身について考え直してしまう。私自身も「移動中」なのである。今後,息子も色々な葛藤や混乱を経験していくのであろうが,それは自身を形成していくためのプロセスなのだと信じて強く生きていって欲しい。そういう事を考えさせられる本書は,「移動する子ども」を育てている人,教育現場で支援する人,そして今まさにそういった葛藤の中を生きている人に是非読んでもらいたい一冊である。

メールマガジン『ルビュ言語文化教育』328号(2010年5月28日発行)「この新著・新刊がおもしろい!」に掲載。

「移動する子ども」の母親として子どもに期待すること

鴻野豊子(早稲田大学非常勤講師)

私は「移動する子ども」の母親です。

子どもは,日本と韓国2つの国籍を持っています。日本で生まれ,日本で育ち,家庭内での使用言語もほとんどが日本語。それでも家庭の中には,常にキムチがあり,韓国の歌が流れ,長い休みになれば韓国のおばあちゃんに会いに行き,スポーツの日韓戦があれば両親のバトルを子どもは目にします。本の中に登場する10人の方に比べると,2つの言語間の移動はまだまだ少ない状態ですが,生活の中に2つの国がある「移動する子ども」なのです。

私がこの本を手にしたとき,最初はことばを教える者の立場で読んでいました。自身の専門が言語教育であり,また学生時代に外国籍の子ども達と関わるボランティアをしていたこともあったからです。しかし,読み進めていくうちに自分の家庭に照らし合わせて読んでいることに気付きました。

この本は,単に日本語や複数言語をどのように習得したのかが語られているものではありません。そこには,10人の方々の,家族や周りの人々との関わり,また日本やその他の国との関わり,それぞれの生き生きとしたストーリーが描かれているのです。

「社会的な文脈や関係の中で人はことばを習得していく」。

移動する子どもではなくても,最近は幼いうちからことばを身につけさせたい,子どもをバイリンガルにしたいと思う親が多くいるようです。私は一母親として,「ことばを身につけてほしい」というより「人とどう関わっていくかを学んでいける子になってほしい」と,この本を読んでさらに強く思うようになりました。

複数の言語・文化間で育つからこそ,ぶつかる壁もあります。そんなとき,10人の子ども達はどんな行動をとったのか,どんな気持ちだったのか,まわりの反応は・・・それらを知ることは,これから子どもを育てていく上で大きな指針になるだろうと思います。私のまわりの,いわゆるママ友の中にも,外国籍の方や外国籍の方と結婚をされている友人がいます。この本は,研究者や言語教師だけでなく,「移動する子ども」のお父さん,お母さんたちにもぜひぜひ読んでほしいと感じました。

全ては一人一人の声から始まる――「移動する子ども」だった私が「移動する子ども」の語りを読んで

山口悠希子(シンガポール国立大学)

私自身「移動する子ども」だった。親の転勤に伴われ,子ども時代を海外で過ごした。その影響もあるのか言語教育に興味を持ち,大学・大学院で学んだ。授業で触れる論文には自分のしてきた経験が確かな理論によって説明されており,そうだったのかと納得する毎日だった。だが同時に,そこからは「一己の人間としての生」がどこか抜け落ちているような気もしていた。本書ではまさにその「生」そのものが語られている。かつて「移動する子ども」だった10人がそれぞれの生活を送り,「自分」になっていった。そこに言葉との深い繋がりがあったのだ。

彼らのストーリーは実に様々だ。もちろん私のストーリーとも異なる。私はレバノンやブラジルに行ったことがない。ましてやスポーツ選手でもなければ音楽家でも女優でもない。だが,彼らの語りには共感するところが非常に多い。個々の経験は違うものの,それぞれ複数の空間や言語を行き来し,周りの人々と関わり合いながら成長する中で,自分とは何かを常に問い直してきた。そして,それに応じてバックグラウンドとして持つ言語との向き合い方も変わっていった。例えば,子どもの時「ベトナムからの難民」として見られたくなくてベトナム語を嫌っていたNAMさんは,やがてベトナムでベトナム語を学び,ベトナム人としてのルーツを歌詞にラップを作った。また,中国語を一度「封印」した一青妙さんも,大学時代のアルバイトをきっかけとして中国語を積極的に使うようになった。皆,こうして自分の人生を生き,現在の「自分」を獲得していったのである。

川上は「移動する子ども」を支援するときに大切なのは必ずしも母語話者のような言語能力を目指すことではないと述べている。むしろ本人が自身をどう捉え,自分の中の言語とどのように向き合い,人生を紡ぎあげていくのかを共に考えることが必要だという。それはつまり,生き方そのものを支援するということだろう。子どもたちが社会の中で自分を位置づけ自己実現してゆく。支援者は,その変化のプロセスを理解し,子どもたちが自分は何者なのか他者と交渉し得る「言葉の力」の育成を考えなければならない。これは個々の子どもの声に耳を傾けることなくしてはできないことだ。なぜなら,人生の主役は子どもたち一人一人であり,皆それぞれの生を営んでいくのだから。全ては一人一人の声から始まるのだ。そのことに改めて気付かせてくれる本書は「移動する子ども」に関わる全ての人に読んでいただきたい一冊である。

メールマガジン『ルビュ言語文化教育』327号(2010年5月21日発行)「この新著・新刊がおもしろい!」に掲載。

響け!「移動する子どもたち」の声

嶋田和子(イーストウエスト日本語学校)

“複数の言語との接触が同時に複数の「生き方」との接触だ”という帯の言葉に惹かれてページをめくり始めた。「移動する子ども」だった人々の生の声は人の心を打ち,説得力を持つ。「移動すること」が加速し続ける現在,「移動する子どもたち」や彼らを取り巻く人々がそれを肯定的に受け止め,自己実現を可能にするための環境作りが急がれる。本書は,そこに颯爽と現れた「10人の移動する子どもたち」のライフストーリーである。

インタビューはインタビューアーの引き出し方で大きく違ってくる。長年「移動する子どもたち」と真剣に向き合ってきた著者によるインタビューには,温かいまなざしが随所に感じられる。さらに,十人十色の多様な生き方,考え方を前にして,子どもが言葉を学ぶことの意味を多面的,多角的に考えることの必要性を浮き彫りにしてくれる。「言葉をどう効率的に習得させるかよりも,言葉を使う人と人との関係性をどう築いていくかが,言葉の習得にはより重要である」という思いが多くの人々に届くことを願う。

本書は「移動する子どもたち」の視点を通して,固定的で画一的な教育のあり方,社会の見方を捉え直し,個別的で動態的で主体的な「人のあり方」を探求することがますます必要になってくるという著者の言葉で締めくくられている。子どもの言葉の発達,他者との関係性の構築,社会が抱えている課題……さまざまな人々にとって必読の一冊である。

私も「移動する子ども」を育ててきました

トムソン木下千尋(豪州・ニューサウスウェルズ大学)

私も「移動する子ども」を育ててきました。

この本を読んで真っ先に思ったのは,娘が小さい頃にこの本に巡り会えていたらどんなによかっただろうということです。言語教育を生業とする私でも,いえ,生業とするからこそ,娘の言語教育には葛藤がありました。この本には言語間を行き来しながら立派に成長した10人の皆さんの姿が生き生きと描かれています。皆さんはそれぞれが実に様々な生活環境,言語環境を経て,今の自分を見つけ出してきています。そしてその背後には,一緒にキャッチボールをしてくれた社会人野球選手キサッダーさんのお父さん,今は作家となった華恵さんの心に届く本を図書館から借りてきてくれたお母さん,心置きなくサッカーができるように横浜の寮生活を支えてくれたプロサッカー選手アーリアさんのご両親,日本での通称を自分で好きに決めなさいと自主性を尊重してくれたラッパーNAMさんのご両親と,皆さんを支えてきた人々の姿が見え隠れし,育て方に違いはあっても,温かい愛情が伝わってきます。

私はこの本から,自分の娘を他の子どもと比べる必要がないことを学びました。一人一人がみな違う,そんな当たり前のことを子育ての最中には見失いがちなのです。

今,あるいはこれから「移動する子ども」を育てるお父さん,お母さんにこの本をぜひ読んでいただきたいと思います。

子どもにとって大切なことは完璧なバイリンガルになることではなく,安心して自分らしさを探せる場所を提供してくれる誰かがそこにいることなんですね。川上先生,ありがとうございました。

推薦のことば

西原鈴子(文化庁文化審議会会長,日本語教育学会元会長)

10人の「移動する子ども」だった方々のお話は,複数の言語との接触が同時に複数の「生き方」との接触だと教えてくれます。これは移動というオプションで育まれた豊かなこころの軌跡の物語です。研究者にはわくわくするデータ,子育てをする人には得難い参考書,成長中の若者には力強い応援歌となることでしょう。

「はじめに」より,抜粋

「移動する子ども」とはどんな子どもか  川上郁雄

最近,テレビなどを見ていると,「日本語のうまい外国人」の方がよく登場します。以前にもいわゆる「外国人タレント」のような人はいました。日本語も上手でしたが,どこか外国人特有のアクセントなどもあったように思います。しかし,最近は,とても滑らかに日本語を使う「外国人」の方がさまざまな分野で活躍されているように見えます。また名前や顔立ちから,「外国人」のように見える「ハーフ」とか「ダブル」と呼ばれる人もいます。こちらも日本語はとても上手です。

私が教えている大学にも,海外からやってくる留学生の中に,日本人らしい名前の学生がいます。海外へ渡った日本人の親を持ち,その地で生まれ育った若者が,日本語や日本のことを学ぼうとして日本に「留学」してくるのですが,最近,その数が確実に増加してきています。そのような若者は,英語やドイツ語,タイ語,タガログ語など,その国の言語ができるうえ,日本語も話せます。

私は,このような大人や学生たちを見かけるたびに,彼らがどのように日本語を学習しているのかについて,また複数の言語をどのように身につけたのかについて,考えるようになりました。というのは,今,国境を越え,複数の言語を操る「移動する子どもたち」が活躍している現象が,日本も含め世界各地で見られるからです。