新着情報――川上郁雄研究室

お知らせ

【参加者募集:12月23日】「移動とことば」第2回・研究会

本研究会は,昨年(2015年)川上郁雄(早稲田大学),三宅和子(東洋大学),岩﨑典子(ロンドン大学SOAS)が中心となって立ち上げた研究会です。

プログラム

12:55開会挨拶
13:00
〜14:30
移動する「わたし」を語る(各発表20分)
フランスの大学で日本語を専攻する学生の学習動機とアイデンティティ――「移動」と「複言語・複文化」の視点から小間井麗(INALCO博士課程)
日本留学を経験した中国朝鮮族の苦悩――中国朝鮮語消滅の過程から市川章子(一橋大学大学院博士課程)
移動のもたらす日本語使用意識の変化鄭雲静(東呉大学大学院博士課程)
ディスカッション(30分)
14:40
〜15:40
移動する子どもと向き合う教育(各発表20分)
補習授業校の教師はどのようにして母語・国民教育から脱却できるのか――ある教師のアイデンティティ構築過程に注目して瀬尾悠希子(大阪大学大学院博士課程)
在外教育施設の教師は複数言語環境で育つ子どもたちをどのように捉えているか――日本人学校の教師たちの語りから見えたもの本間祥子(早稲田大学大学院博士課程)
ディスカッション(20 分)
15:50
〜17:20
「越境」を超えた移動を捉える(各発表20分)
移動する在日パキスタン人世帯の次世代――パキスタンの国語ウルドゥー語に関して山下里香(東京大学)
国境を超越するろう者――移動をめぐるあるろう者のライフストーリー大塚愛子(ロンドン大学SOAS大学院博士課程)
岩﨑典子(ロンドン大学SOAS)
移動することば,人,モノの交差点――東京とシドニーのバングラデシュ系の雑貨店をめぐって尾辻恵美(シドニー工科大学)
ディスカッション(30分)
17:20
〜17:50
総括討論
「移動とことば」を考える――ことば・アイデンティティ・ライフ三宅和子(東洋大学)
川上郁雄(早稲田大学)
17:50〜18:00今後へ向けて――第3回研究会と出版計画

移動とことば研究会

クリフォード(2002)は,誰もが,いま,移動していると述べ,移動が未完の近代にとって決定的に重要な場所であると指摘した。人間の生活が静止と同じくらいの転地(displacement)によって構築されるという意味である。「旅の中に住まう」(dwelling in travel)と表現するクリフォードの捉える生活実践は,現代の人々の生活,社会のあり方を考えるうえで極めて示唆的である。

また,言語は,バフチン(1980)が述べるように,「絶えざる生成の過程」であり,「語り手・聴き手の言葉による社会的な相互作用」という形をとって実現される過程であると捉えるなら,言語は極めて動的なものと考えられる。加えて,コストら(2011)が指摘するように,現代に生きる人々は誰もが幼少期より言語と文化の複数性と融合性に日常的に触れる経験を積んでおり,その経験がベースとなった複言語複文化能力は複雑で不均質だが全体としてひとつのものとなって人を形づくっていると考えると,人を支える力も複合的で,動的なものと考えられる。

多様な背景を持つ人々の日常的実践である言語行動自体を,複言語複文化能力の戦略的なコミュニケーション方略とあわせて考察する,近年の社会言語学の新しい潮流を踏まえると,人の生活を国籍やエスニシティで捉えられない現実があることがわかる。そして,移動の中に生き,「複数言語」と接触する現実は,人の人生,家族の形,子どもの教育などに流動性と複合性を与え,人のあり様を加速度的に多様化している。

本研究会は,そのような現実を生きる人々の生活を,「移動」と「ことば」という二つの焦点で捉えるバイフォーカル(bifocal)なアプローチから,移動性,複文化性,複言語性を持つ人のあり方を考察することが21世紀の社会的課題であると考える。考察の対象は,子どもから大人まで,国籍・国家の枠を超えて設定する。既存の学問領域を超えた視点からの多様な研究交流の場として,研究会を立ち上げた。

参考文献
  • クリフォード,J.(2002).毛利嘉孝,他(訳)『ルーツ――20世紀後期の旅と翻訳』月曜社.
  • コスト,D.,ムーア,D.,ザラト,G.(2011).複言語複文化能力とは何か.姫田麻利子(訳)『大東文化大学紀要人文科学編』49,249-268.
  • バフチン,M.(1980).『ミハイル・バフチン著作集4 言語と文化の記号論』新時代社.
学会パネル
  • 三宅和子,岩﨑典子,川上郁雄(2014).「複言語使用者は日本語・日本をどのようにとらえ,どのように向き合っているか」第18回ヨーロッパ日本語教師会シンポジウム.
  • 三宅和子,川上郁雄,岩﨑典子(2015).「複数言語環境に生きる人々の『日本語使用,日本語学習』の意味とアイデンティティ」第19回ヨーロッパ日本語教師会シンポジウム.
  • 川上郁雄,三宅和子,岩﨑典子(2016).「『移動とことば』の視点から見る,個人にとっての日本語使用の意味と位置付け」2016年日本語教育国際研究大会.
研究会の主催と研究成果の刊行

本研究会は川上郁雄(早稲田大学),三宅和子(東洋大学),岩崎典子(ロンドン大学SOAS)が主催する研究会である。この3人が査読編集委員を兼ねる。研究会は今後,3回実施する予定。その中から優れた研究成果を選び,3人の編者による書籍化を行う。

参考:発表者募集――締切ました

第1回は2016年1月29日に早稲田大学で開催し,多くの研究発表があり,活発な意見交流が行われました[第1回研究会プログラム:PDF]。そこで,続く第2回の研究会を下記のとおり実施するに際し,研究発表を募集します。下記の要領で応募ください。

研究発表希望者は,氏名,発表タイトル,概要(400字程度)を,以下のアドレスへ送付してください。

【講演:11月24日】クイーンズランド大学「50th Anniversary of Japanese」記念シンポジウムで基調講演を行います


川上郁雄
Mobility and Children: Memories of Children Crossing Borders
(移動と子ども――「移動する子ども」という記憶)

クリフォード(2002)は「移動」を未完の近代にとっての決定的に重要な場所であるという。現在,移民・難民等の大量人口移動の陰に子どもがいる。親の移動にともない,子どもは成育環境,文化,言語の境界を超えて移動せざるを得ない。親の国際結婚は「移動」の一例で,近年子どもの多様性は加速度的に増加している。このような移動性,複文化性,複言語性を持つ人のあり方を考察することは21世紀の社会的課題である。

本研究では,移動性,複文化性,複言語性を持つ子どもがテーマであるが,ここで考えたい対象は,実存する子どもではない。「移動する子ども」という記憶である。「日本」「オーストラリア」といった学的議論において「移動する子ども」という記憶はどのように研究対象化できるのか。そして,そのことが,オーストラリアにおける日本研究にどのような意味があるのかを考えたい。

(川上郁雄:早稲田大学大学院日本語教育研究科教授,クイーンズランド大学名誉教授)

川上郁雄の最近の仕事より

論文

  • 川上郁雄(2016).移動する子ども.駒井洋(監),佐々木てる(編)『マルチ・エスニック・ジャパニーズ――○○系日本人の変革力』(pp. 86-89)明石書店.
  • 川上郁雄(2016).ベトナム系日本人――「名付けること」と「名乗ること」のあいだで.駒井洋(監),佐々木てる(編)『マルチ・エスニック・ジャパニーズ――○○系日本人の変革力』(pp. 168-184)明石書店.
  • 川上郁雄(2015).あなたはライフストーリーで何を語るのか――日本語教育におけるライフストーリー研究の意味.三代純平(編)『日本語教育学としてのライフストーリー――語りを聞き,書くということ』くろしお出版
  • 川上郁雄(2015).「ことばの力」とは何かという課題『日本語学』10月号(特集「国語教育と日本語教育の連携」).
  • 表紙:川上郁雄,人見美佳,上原龍彦,大森麻紀,本間祥子(2015).日本語を学ぶ子どもたちの震災後――心とことばの学習を支える実践研究.鎌田薫(監)早稲田大学震災復興研究論集編集委員会(編)『震災後に考える――東日本大震災と向き合う92の分析と提言』(pp. 984-992)早稲田大学出版部.[抜き刷りをダウンロード:PDF
  • 表紙川上郁雄(2014).難民.山下晋司(編)『公共人類学』(pp. 189-204)東京大学出版会.

学会発表

  • 三宅和子,川上郁雄,岩崎典子(2015年08月).「複合言語環境に生きる人々の『言語使用,日本語学習』の意味とアイデンティティ」第19回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム(フランス:ボルドーモンテーニュ大学).
  • 川上郁雄(2014年8月30日).「『移動する子ども』の複言語・複文化そしてアイデンティティを考える」.三宅和子,岩崎典子,川上郁雄〈パネルセッション〉「複言語使用者は日本語・日本をどのように捉え,どのように向き合っているのか」第18回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム(スロベニア:リュブリャーナ大学).
  • 川上郁雄(2014年8月9日).「『ことばの教育』を創造する『教育支援システム』の構築――三重県鈴鹿市における教育委員会,学校,大学の連携をもとに」〈多文化系学会連携協議会企画・特別研究発表〉異文化間教育学会第29回研究大会(仙台大学)〈『要旨集』p. 20〉.
  • 川上郁雄,中村栄子,西村パーク葉子(2014年7月11日).「『移動する子ども』のことばの教育を考える――オーストラリアで成長する子どもたちへの日本語教育実践から」シドニー日本語教育国際研究大会/Sydney-ICJLE2014(シドニー工科大学).
  • 川上郁雄,野山広,石井恵理子,池上摩希子,齋藤ひろみ(2014年5月31日).「『特別の教育課程』化は子どもたちのことばの教育に何をもたらすのか――年少者日本語教育のこれまでの成果と教育実践から考える」2014年度日本語教育学会春季大会(創価大学)〈『予稿集』pp. 35-46〉.

講演

  • 川上郁雄(2014年12月6日).「日本語教育と『移動するこどもたち』」朝日カルチャーセンター講演会(新宿:朝日カルチャーセンター).
  • 写真川上郁雄(2014年8月16日).「日本語を学ぶ子どもたちにとって意味のある言語活動とはなにか」ウズベキスタン日本語教師会(主催)ウズベキスタン日本語教育セミナー(ウズベキスタン日本人材開発センター).

集中講義

  • 川上郁雄(2014年8月5日~8日).「移動の人類学」(授業科目:文化人類学各論)東北大学文学部・文学研究科.

書評

  • 川上郁雄(2016).我住在日語:わたしは日本語に住んでいます。―温又柔(2016).『台湾生まれ 日本語育ち』白水社.『ジャーナル「移動する子どもたち」―ことばの教育を創発する』7,59-69.http://gsjal.jp/childforum/journal_07.html
  • 川上郁雄(2014年9月19日).書評「台南ブームと顔妙さん――複言語への思い,記憶,そして家族の絆(一青妙(著)(2014)『わたしの台南――「ほんとうの台湾」に出会う旅』新潮社刊.).『ルビュ「言語文化教育」』509.http://archive.mag2.com/79505/20140920141931000.html

研修会

  • 川上郁雄(2015年10月24日).「「子どもの状況に合わせた指導法――事例を考える」千葉市JSL児童・生徒支援の会平成27年度第3回研修会(千葉市国際交流協会).[チラシ:PDF
  • 川上郁雄(2014年6月29日).「JSLバンドスケール・ワークショップ――児童生徒のことばの力をどう把握し,実践をデザインするか」日本語教育学会2014年度日本語教師研修(早稲田大学).

【新刊】『日本に住む多文化の子どもと教育――ことばと文化のはざまで生きる』宮崎幸江(編)

川上郁雄:第5章「ことばとアイデンティティ――複数言語環境で成長する子どもたちの生を考える」ほか

表紙川上の執筆による第5章は,昨2013年5月の日本語教育学会春季大会で口頭発表した内容をまとめたもの。「移動する子ども」から「移動する家族」へと展開した記念碑的論文。

  • 川上担当箇所
    • 第5章「ことばとアイデンティティ――複数言語環境で成長する子どもたちの生を考える」
    • Column:「ベトナム難民」二世を,私たちはいつまで「ベトナム人の子ども」と呼ぶのだろうか
    • 第3部:対談「多文化の子どものことばとアイデンティティ」
  • 内容紹介(ぎょうせい)
  • SUP上智大学出版より2014年1月6日刊

【新刊】尾関史(著)
『子どもたちはいつ日本語を学ぶのか――複数言語環境を生きる子どもへの教育』

複数の言語や文化の中で育つ子どもたちは,複数のことばをどのように捉え,どのように学ぶのか。そして,その過程でどのようなアイデンティティを形成しながら成長していくのか。

本書ではこれらの問いに答えつつ,複数言語環境を生きる子どもたちへの「ことばの教育」を再考する。

前半では,ある外国籍の子どもに対する日本語教育実践と帰国後の学びを,約1年半にわたるフィールドワークを通して捉える。後半では,複数言語環境で育ってきた4人の若者たちにライフストーリーインタビューを行い,幼少期の経験がその後の言語習得や人間形成,アイデンティティ形成にどのような影響を与えているのかを探る。

尾関史さんの研究紹介 >

【新刊】
다락원일본어독해(タラグォン日本語読解)』シリーズ(다락원 刊)

  • 古賀万紀子,青木優子(著)
  • 表紙다락원일본어독해 중급(タラグォン日本語読解 中級)』
  • 다락원일본어독해 초급(タラグォン日本語読解 初級)』
  • 다락원일본어독해 초급에서 중급으로(タラグォン日本語読解 初級から中級へ)』
  • 다락원による紹介

初級・初中級・中級段階の学習者を対象とした総合型読解教科書です。本教科書では,読むことに加え,本文の中で新しい文型や語彙を学び,書く練習や聞く練習を通してそれを身につけることを目指しています。

各課のトピックは,身近なものから社会問題まで,学習者の関心を引く幅広いテーマを取り入れました。授業の目的やカリキュラムに合わせて,どの課からでも始められます。

課の構成は,導入部・本文・読解問題・本文中の単語や表現の一覧・文型練習・文法練習問題・聴解問題となっています。文型説明や単語説明には韓国語での説明や対訳が付いていますから,それを参考にしながら問題に取り組むことができます。また,難しい漢字には読み仮名が付いていますが,文字の下にルビを振っているので,それを隠しながら読むことで,漢字の練習もできます。

楽しみながら学習することができるよう,さまざまな工夫が詰まった教科書です。

青木裕子