「移動する子ども」という記憶と力――ことばとアイデンティティ

リテラシーズ叢書(2)――「移動する子ども」学の新たな視座の提示

「移動する子ども」は,親や支援者,まわりの子どもたちとどのような関係性の中でことばを習得したのか――。いかに効率的にことばの学習をするかではない。複数言語を学んだ経験が人生の中でくりかえし意味づけられ,「移動する子ども」という記憶として人を形成していく。当事者が語る経験と記憶は,社会を生き抜く力の源泉となる。

  • 表紙川上郁雄(編)
  • 定価: 3,990円(税込)
  • ISBN: 9784874245798 C3080
  • A5/384頁,くろしお出版より2013年2月26日発売
  • 関連サイト: リテラシーズ研究会
  • もくじ
  • 書評コーナー
    • 佐久間孝正さん(東京女子大学名誉教授)
      川上郁雄編『「移動する子ども」という記憶と力――ことばとアイデンティティ』を読んで
    • 宋恵媛さん(ダイアスポラ研究・在日朝鮮人文学研究者)
      「近未来の子どもたちとの旅」(メルマガ『ルビュ言語文化教育』453号)
    • 松井孝浩さん(国際交流基金マニラ日本文化センター:セブ駐在)
      「複数言語環境で育つ子どもたちのことばの営みをまるごと捉える視点」
    • 金孝卿さん(国際交流基金シドニー日本文化センター)
      「『移動する子ども』は,私に,オートポイエーシスの世界を連想させてくれた」

「序」より

本書は,幼少期より複数言語環境で成長した子どものことばとアイデンティティをどう捉え,どのように育んでいくのかをテーマにした書である。どの章も,さまざまな実践や調査,経験に基づく論考で,「移動する子ども」をめぐる新しい視点や議論を提示している。

日本の学校等で日本語を学びながら成長している子どもたちへの日本語教育や,日本国外に暮らしながら親の言語である日本語を学ぶ子どもたちへの日本語教育については,これまでも多様な実践研究や議論があった。ただし,それらの研究では,子どもにいかに日本語を習得させるかに焦点があたりがちであった。それに対して本書は,子どもがどのような関係性の中で日本語を学んでいるのか,子ども自身が自分の日本語や日本語学習についてどのように考えているのか,また,日本語を使用した経験や学んだ経験はその人のアイデンティティや人生にどのように関わっていったのかなどについて深く掘り下げようとしている。

もくじ

  • 序 思想としての「移動する子ども」(川上 郁雄)
  1. 「移動する子ども」学へ向けた視座――移民の子どもはどのように語られてきたか(川上 郁雄)
第1部 「移動する子ども」という記憶
  1. 「移動する子ども」が大人になる時――ライフストーリーの語り直しによるアイデンティティの再構築(谷口 すみ子)
  2. 「日本人らしい日本語」が話せない日本人である僕の物語(鄭 京姫)
  3. 日本とフランスを「移動する子ども」だったことの意味(小間井 麗)
  4. 私の中の「移動する子ども」――自己エスノグラフィーから見えたもの(李 玲芝)
  5. 「移動する子ども」が特別ではない場所――オーストラリアで日本語を学ぶ大学生の複言語と自己イメージ(トムソン 木下 千尋)
第2部 「移動する子ども」という主体▼
  1. 幼少期より日本で成長した高校生が語る記憶,ことば,自分(太田 裕子)
  2. 「移動する子ども」のことばの発達をめぐる親子の物語(佐伯 なつの)
  3. 複数言語環境にある親子はことばの学びをどのように捉えていたか(本間 祥子)
  4. JSLの子どもが「なりたい自分」に向かうための日本語支援(唐木澤 みどり)
  5. 日本語を学ぶ子どもが語る「自分らしさ」――複数のことばに育まれるアイデンティティ(相浦 裕希)
  6. 複数言語と向き合うこと――子どものことばと主体性の関係(金丸 巧)
第3部 「移動する子ども」という意識のゆくえ
  1. カナダと日本で育った私が震災後のFUKUSHIMAから発信する理由(ウィリアム マクマイケル)
  2. 多文化社会の中で育つ,育てる――ことば,家族,社会,そしてアイデンティティ(陳 天璽)
  3. 「移動する子ども」のことばと心を育むために親ができること(高橋 朋子)
  4. 複言語・複文化の子どもの成長を支える教育実践――親が創るタイの活動事例から(深澤 伸子)
  • あとがき 新しいステージにたつ「移動する子ども」(川上 郁雄)

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