川上郁雄が訪ねるオーストラリアのESL学校
シドニー編 2008

4.教科学習を通じて英語を学ぶ ― Cleveland St. Intensive English High School (4)

Cleveland St. Intensive English High School生徒たちがこの学校に在籍するのは半年から1年程度である。その間に生徒がいかに英語を学び,普通のハイスクールで学んでいく力を身につけるかが,この学校のテーマである。

この学校にはYear 7からYear11までの約300名の生徒が在籍している。各学年には,英語力別に四つのコース,すなわちアルファベットの書き方から教える基礎(Foundation)コース,初歩的なやりとりや短文を読む程度の初級(Preliminary)コース,接続詞を使った複文や完了時制などを使ったやりとりや簡単な文章を読める程度の中級(Intermediate)コース,日常会話も自由にでき,やや長めの文章を読んで問題に英語で答えることができる転出準備(Transition)コースがあり,クラス数は合計23クラスであった。1クラスの人数は,多くても15人程度である。授業では,英語力に応じで教科内容が教えられる。たとえば,初級レベルの数学では正方形,長方形や「+(プラス)」「-(マイナス)」などの数学の基礎用語が英語で説明される。中級レベルの美術の時間では,オーストラリアの先住民,アボリジニーの芸術の技法や精神世界などについて生徒が自らインターネットを調べ,レポートを作成するなど,教科内容に関する授業を通じて英語も習得できるようにデザインされている。

この学校には生徒会活動(Student Representative Council)やスポーツ活動,朝食クラブ,発音クラブ,学校日直(Duty student),ユニセフの募金や人権教育,ハーモニーデイ(Harmony Day),放課後クラブなどに生徒が参加できるようになっており,学校生活のさまざまな場面を通じて生きた英語が学べるようになっている。また,カウンセラー,校医やキャリア・アドバイザーもおり,生徒の心身の健康のサポートと進路指導も行うスタッフもいる。学期に一度は父母教師会(parent teacher evening)があり,生徒の成績や進路などについて相談する機会もある。つまり,この学校は他の州立学校と同様の教育システムにそって教育が行われている。

各教科の内容はNSW州の教育訓練省の定めた公立学校のシラバス(HSC Syllabuses)に準拠しており,英語教育の内容はESLフレームワーク(Intensive English Programs Curriculum Framework: Secondary)に基づいて実施されている。さらに英語力の発達段階についてはESLスケール(ESL Scales)によって把握されている。教員の大半は大学を卒業した上に,ESL教育に関するDiplomaや大学院での専門教育を受けており,教科教育と第二言語教育としての英語教育の両方をねらいとする授業を,上記のシラバスとフレームワークに基づいて行うことができる。

学校は,これらの授業による成果(outcome)を公表することが義務付けられている。生徒の英語力のうち,口頭能力(Oral interaction),読解力(Reading and Responding),書く力(Writing)がESLスケールによって把握され,そのレベルによって示される。また,連邦政府の基準(National benchmarks)に基づくYear 7の生徒を対象にした英語力テスト(English Language and Literacy Assessment: ELLA)と数学力テスト(Secondary Numeracy Assessment Program: SNAP)の結果も公表されている。

ただし,このハイスクールで半年から1年ほど英語を集中的に学んでも,英語力はまだ十分とは言えない。教師たちによると,転出する時期の生徒の英語力はおよそESLスケールのレベル3からレベル4程度であるという。このレベルは,ほかのハイスクールに転入したとしても,すぐにメインストリームの授業に参加するのは難しいレベルである。それでも,このハイスクールを転出していかなければならないのである。転出する生徒はまだまだ英語力が弱く,特別な支援が必要である。そのため,転出先のハイスクールでESL生徒が多い学校ではESL教師がいて特別の授業をするところも多い。

次回はCleveland St. Intensive English High Schoolのスタッフについて報告する。

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なお,この調査は,平成20年度科学研究費補助金(課題番号:20652038,代表:川上郁雄)に基づくものである。