川上郁雄が訪ねるオーストラリアのESL学校
シドニー編 2008

1.「調和と前進」が合言葉の学校 ― Cleveland St. Intensive English High School

Cleveland St. Intensive English High Schoolクリーブランド・ストリート英語集中ハイスクールは,オーストラリアに新しく入国した子どもたちに英語を集中的に教える中等教育レベルの学校である。

学校の建物は,シドニーの南側の交通の拠点,セントラル駅から徒歩5分ほどのところに位置し,広い公園に隣接している[地図]。このハイスクールの建物は1856年に建てられたもので,全豪で最も古い学校の建物と言える。その後,ハイスクールが移転したため,その校舎を利用して,1977年から移民の子どもへ英語を教える学校(Intensive English Centre)が開設された。これまで100カ国以上から来た1万人以上の移民子弟に第二言語としての英語教育(ESL教育:English as a Second Language)を提供してきたのである。2001年に,ニューサウスウェールズ州教育訓練省(NSW Department of Education and Training)の監督下にある中等教育レベルのハイスクールとして再編され,名称も現在のものに変更された。

したがって,この学校では入学した生徒に第二言語としての英語(ESL)だけが集中的に教えられているのではなく,主要学習領域(Key Learning Areas)の英語,数学,理科,社会,芸術(美術,音楽を含む),技術・情報教育,保健体育などもあわせて教えられている。つまり,生徒はこれらの教科学習を通じて英語もあわせて学ぶことができるのである。そのような教科学習をベースにしたESL教育が行われている点が,この学校の最大の特徴である。そのため,教員はこれらの教科の先生でもあり,ESLも教えられるESL教員でもある。

Cleveland St. Intensive English High School現在,この学校には300人を超える生徒が在籍している。その中には,オーストラリアへ移住してきた生徒だけでなく,短期滞在者や留学生も含まれる。学年は,Year7からYear11で,日本の中学1年生から高校2年生に相当する学年の生徒たちが中心である。教員は校長ほか40名(常勤),その多くが複数言語を使うことができる。教員の中には子どものころに来豪し,教育を受けてESL教員になった人もいる。そのほか,学校には通訳や翻訳を手伝うバイリンガルのスタッフ(Bilingual learning Support Officer,以下バイリンガル・スタッフ)が常勤,非常勤を含み20人ほどいる。それらの教員,スタッフが使用する言語は,英語のほかに,イタリア語,フランス語,ドイツ語,スペイン語,ノルウェー語,ギリシャ語,ロシア語,ウクライナ語,ペルシャ語,ベトナム語,ウルドゥー語,ベンガル語,アラビア語,ネパール語,ヒンディー語,タイ語,インドネシア語,中国語(北京語,広東語),韓国語,日本語である。

生徒はこの学校に入学し,半年から1年ほど勉強した後,ほかの普通のハイスクールに転出していく。この学校への入学は毎週可能である。年に4学期制で,毎学期後,ほかのハイスクールに転出する生徒が50人から100人ほどいる。そのため,在籍生徒数は常に変化している。

私は現在,この学校で調査を行っている。授業を見学し,教員にインタビューをし,資料収集を行っている。この学校が,日本における「日本語を第二言語として学ぶ子どもたち」(JSLの子ども)のための学校のモデルとなると思うからである。この学校がどのように運営されているか,英語がどのように教えられているか,子どもたちにどのようなサポートがあるのか,これから紹介していこう。

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なお,この調査は,平成20年度科学研究費補助金(課題番号:20652038,代表:川上郁雄)に基づくものである。