ヤポニクムでの授業実践報告(その3)

報告者:渋谷順子
ドイツ・ノルトライン=ヴェストファーレン州立外国語学校(Landesspracheninstitut:LSI-NRW)“ヤポニクム(Japonicum)”講師

第8日目 10月17日(水)

午前8時30分~10時10分

歌「氷雨」

この歌を使う理由は,この歌には,今日応用練習する第7課の「使役形」と「可能形」,第6課で導入された「受身形」,第3課の「~と言う」,第2課の「~ば」などの文型が入っていることと,それから,最後の課(14課)で自動詞,他動詞が導入されるが,私の経験では自動詞・他動詞を一緒に導入するのはいつも学習者に大きな負担になっていた。その負担を軽減させるために10年ほど前に「悲しい他動詞・自動詞の歌」という歌を作ったのだが,それが「氷雨」の替え歌であるため,「氷雨」のメロディーに馴染んでもらうためである。

ディクテーション:第7課 応用練習
文法事項
「使役」「可能」
使役の復習

まず,「料理を作りました」と書いてあるカードを示し,使役の文を作るように指示。「友達に料理を作らせました」と参加者の一人が言ったので,「目上,友達,目下」と板書し,意味の確認をしたあと,「目下」の人だけだと説明し,「弟に料理を作らせました」の文を導く。それから,「部屋を掃除しました」「ビールを買ってきます」で参加者に使役文を作ってもらう。その過程で,「友達に」はだめかとの質問があったので,友達の場合は,命令ではなく依頼になるため,「ビールを買ってきてもらう」になると紹介。

次に,参加者一人一人に,子供がいるかどうかを質問した。今回は誰も子供がいなかったので,「子供がいたら,何をさせますか」と言いながら,「責任を持つ」「自分がやりたいことをやる」「ボランティアに参加する」「いい本をたくさん読む」等の文とそのドイツ語が書かれたカードを一つ一つ床に置いていき,日本語の文の意味を確認していった。

「みんなの日本語」II翻訳・文法解説ドイツ語版p.139を参考にした。

そして,全部で15枚あるので,自分の好きなカードを2枚か3枚選んでもらい,使役形に直すとどうなるか考えるように指示。その間に,

  • A. ○○さん,子供がいたら,子供に何をさせますか。
  • B. そうですね。子供がいたら,子供に~~(さ)せるつもりです。
  • A. あぁ,そうですか。

と板書。ペアになって練習するように指示。自分が持っているカードで練習が終わったら,相手や他のペアとカードを交換して練習するように言ったので,一人一人の参加者は15枚すべてのカードで練習したことになる。

全部の練習が終わったペアから,持っているカードを床に置くように指示し,「私は今何をしましたか」と質問。「渋谷さんは私にカードを床に置かせました」の答えを導く。そして全員が揃ったところで,「渋谷さんは私たちにカードを床に置かせました」とコーラスさせ,今度は,そのカードから,自分が一番子供にさせたいことを選ばせ,「子供がいたら,いい本をたくさん読ませるつもりです」など一人一人発表してもらった。一通り済んだあと,「~いい本をたくさん読ませるつもりです」と答えた参加者に,「○○さんは,子供の時,ご両親にいい本をたくさん読ませてもらいましたか」と質問。同時に,「子供は,いい本を読む」「私は,子供にいい本を読ませる」「両親は,私にいい本を読ませる」「私は,両親にいい本を読ませてもらう」と板書し,「誰が本を読むか考えてください」と言った。

この形は非常に複雑なので,学習者が一瞬で理解するのは難しく,経験上下手に教師が説明し出すと学習者が混乱するのはわかっているので,参加者が頭の中を整理している間,私は沈黙を通した。

その後,「両親にいい本を読ませてもらう」は誰が読むかを質問したところ,一応答えられたので,「○○さんは,子供の時,ご両親にいい本をたくさん読ませてもらいましたか」と質問し,「子供の時,両親にいい本をたくさん読ませてもらいました」の答えを導き,次の人に「○○さん,子供の時,ご両親に何をさせてもらいましたか」と質問,答えられたので,今度はその質問を隣りの人にするように指示。中には,文作りで混乱する参加者もいたが,他の参加者から助けてもらいながら行なっていった。

「我慢する」というカードを選んだ参加者の番になったとき,「これは,うれしいですか。うれしくないですか」「angenehm oder unangenehm? (快,不快)」と質問,その参加者が「unangenehm(不快)」と答えたので,「~もらう」は使えないから,ちょっと考えるように言うと,他の参加者から,「我慢させられた」という文が出た。参加者全員が,わかったという顔をしたので,床に置いてあるカードから,angenehm(快)なカードとunangenehm(不快)なカードを選ぶように指示。次々に「させてもらう」文と「させられる」文を作っていってもらった。

この時,日本語では「使役形」単独で使うことはそれほど多くなく,普通「させられる」もしくは「させてもらう」の形を多く使うことを説明。

最後に,「ドイツにいる友達が結婚する」「国に帰る」と書かれたカードを示し,黒板に,「A: すみません。ちょっとお願いがあるんですが。 部長: はい,なんですか。 A: 実は,友達が結婚するので,国に帰らせていただけませんか。部長: ああ,そうですか。いいですよ」と板書。

この言い方は,日本の会社で働く時,大変大切だと説明。

「来週の金曜日に友達の結婚式がある」「早退する」,「来月,ドイツから両親が遊びに来る」「休暇をとる」のカードを示し,態度や表情を加えてペアで練習をするように指示。→発表。

午前10時30分~12時15分

Lesen/ Schreiben (3) 読解

今回も,みんなの日本語37課にある「日光東照宮の眠り猫」を基に私が作り直した文章を使った。それは,この文章には「受身」や「可能」が入っているし,漢字が多い文章なので一見難しそうには見えるが実際はそれほどでもなく,参加者に満足感を与えられると思ったからである。

普通,作文などの時間以外はヤポニクムでは机は使われていないが,今回は「読み」に集中してもらうために机を用意した。

まず,読解教材を配る前に,日光と日光東照宮の写真を見せ,「きれいですね」「どこでしょうか」「行ったことがありますか」と聞いていった。一人の参加者が「日光です」「行ったことがあります」と答えたので,「どんなところでしたか」「東京からどのくらいですか」と質問。「湖がありました」「きれいでした」,「2時間くらいです」と答えてくれた。

それで,「日光へは東京から電車で2時間くらいで行きます」と書いたカード(小さくドイツ語訳あり)を参加者に見せ,「東京から電車でどのくらいで行けますか」と質問。「日光へは東京から電車で2時間くらいで行けます」と言ってもらった。次に「日光できれいな湖や滝を見ます」と書いたカードを見せ,「日光で何ができますか」と質問。「日光できれいな湖や滝が見られます」を導く。それから,「日光で猿に会います」「日光できれいな紅葉を楽しみます」「日光東照宮で有名な絵や彫刻を見ます」と次々に提示し,可能形で文を作ってもらった。

実は,今回,応用練習の時間に「使役」とともに「可能」の練習もしなければならなかったのだが,どうしても私の中でこの二つの項目を繋げることができなかったので,「可能」をこの時間に持ってきて,読解教材の語彙導入を兼ねてここで行った。

この作業が終わってから,読解教材のプリントと,語彙のドイツ語訳を配り,私が通して読むのを内容を考えながら聞くように指示。それから,時間を三分あげてプリントに目を通すように指示。その後,何が書かれていたか質問し,出てきたことを私が板書していき,正しいかどうかを質問および訂正していった。この時,単語でも文でもいいと言っておいたが,単語が出てきた時は,他の文とつなげたり,その単語で文を作ったりした。その結果出てきたものが以下のものである。

  • 日光東照宮に有名な絵や彫刻がたくさんあります。
  • 日光東照宮は17世紀の初めに建てられました。
  • 眠り猫という彫刻は左甚五郎が彫りました。
  • 左甚五郎はとても上手な彫刻家でした。
  • 左甚五郎は友達に右手を切られてしまいました。
  • 日光東照宮には甚五郎の猫がいるからねずみが一匹もいません。

その後,教材を参加者に読んでもらいながら内容確認。一人だけ,単語がわからないから全然わからないという参加者がいたので,最後にその人にだけドイツ語訳を渡し,三人ずつ2グループに別れてもらい,内容,単語の意味,文法などすべてきちんとわかるまで仲間と話し合うように指示した。

Testbesprechung (1) テストについての話し合い

ヤポニクムの初級IIのコースではテストが2回行なわれるが,これは一般でいうテストのことではない。

ここでのテストは,参加者を評価するためのものではなく,参加者自身が自分でどこがわかり,どこがわからないのか確認するものである。であるため,教師は回収もしないし,点数もつけない。

ヤポニクムでは最後の日に無記名アンケートを参加者に提出してもらっているが,ここでは,教師やヤポニクムの授業,教材,施設そのものが評価対象であって,参加者は評価対象ではない。彼らの日本語の実力は彼らが日本に行ったときに自分で計ればいいという考え方があるからである。

前の時間から読解の内容等の確認作業をグループでやってもらっていたが,それが終わったグループからテストを出してもらい,三人で一つの答えにするように指示。どうしてもわからなかったら教師に質問するように言っておいた。

何人いても見過ごされる間違いというのは必ずあるので,教師は注意深くチェックし,その場合はそこを指しながら,「もう一度考えてください」と指示。あとは放っておいた。

いつもは積極的でよくできる参加者がとんでもない勘違いをしていたり,授業の時はいつも遅れ気味の参加者が正確に理解していたりする。そんな時は,遅れ気味の参加者が何故そうなのか丁寧に説明していた。日本語には様々な側面があり,学び方も人それぞれなんだなと改めて思った。

最後に解答を渡して,「氷雨」を歌って終了。

つづき