ヤポニクムでの授業実践報告

報告者:渋谷順子
ドイツ・ノルトライン=ヴェストファーレン州立外国語学校(Landesspracheninstitut:LSI-NRW)“ヤポニクム(Japonicum)”講師

第1日目 10月9日(月)

今日から3週間の初級IIコースが始まる。5月,7月とやって三度目,初めて全体での導入部分を任された。参加者6人×2クラス

Spielerische Einführung(遊びのような導入)午後2時~3時 2クラス合同授業

導入部は基本的に初級Iコースと同じで,3週間の間使用する日本人の「名前」を選んでもらうついでに,基礎漢字と日本語のアクセントの導入をする。

初級Iでは,山 川 口 日 田 木 林 森 本 石 岩 金 村 井 大 中 小 上 下の漢字を絵を使って導入し,それらの漢字を二つ組み合わせた日本人の名前を導入する。

初級IIでは,それに,東 西 南 北 高 安 赤 青 黒 白を使った名前が加わる。この中で色を表す漢字は未習なので,今回,絵を使って導入した。

まず,「赤」という字は,「土」+「火」でできている(これはヤポニクムに来て知った)。それで,前もって「火」という漢字のそれぞれの部分を可動にし,参加者の前で「火」→「赤の下半分」になることを示し,「火で土を焼くと赤くなります」と導入。

次に「黒」という字は,「土」+「火」+「田」でできているので,「火で田んぼの土を焼くと黒くなります」と導入。

そして,「青」は,植物を表す漢字の部分と,「月」でできていて,「白」はカタカナの「ノ」と「日」でできていると,これも絵で導入した。

これらの絵は,以前,曜日定着のために書いた絵漢字のうち,「月」「火」「土」「日」が転用できたので,良かったと思う。

そのあと,初級Iで導入した名前も含めて,三種類のアクセントの違い(下上下下,下上上上,上下下)*の違いに注目してもらいながら読んでいく。

最後に参加者に好きな名前を選んでもらって,その名前で簡単な自己紹介をしてもらい1時間の「遊びのような導入」が終了した。

反省点として,この授業のために用意した表や絵はうまくできたと思う。しかしながら,やはり初めてだからか,参加者の細かな反応になかなか上手に反応できず,導入自体はうまく行ったと思うが,私がいつも心がけている「楽しく遊びのように」まで,できたかどうかは自信がない。場数が必要なのか。

*今回,学生に示す名前の表が古くなっていたので書き換えたが,その過程で,下上下下のアクセントの名前(例 川口,山川)を見てみると4文字の名前しかなく,上下下のアクセントの名前(例 渋谷 田 口)を見てみると,大川,大石など「大」がある名前以外は三文字である。何かルールがあるのだろうか。

Hören/Sprechen(1) 聞くこと/話すこと 自己紹介 3時10分~4時15分

新しく決まった名前で自己紹介をすると見せかけた,初級Iの復習である。

「~は~です」文はもちろんのこと,「~したことがあります」「~するのが好きです」「~で,~を勉強しています」など,その時,参加者が言おうとしていることを敏感に察知して,必要な文型や語彙を与える。また,今日この次の時間で導入する文法事項,「~つもりです」「~ても」も一緒に導入し,例えば「ヤポニクムで一生懸命勉強するつもりです」「眠くてもがんばります」と,自己紹介の中で言ってもらった。これはうまく行った。学習者も自分がいいたいことが言えて満足そうだった。

一人の参加者が「ヤポニクムでケーワを練習するつもりです」と言った。「ケーワって?」「Konversationです」それを聞いて,「会話」と板書し,「読み方は?」と質問する。すぐに「かいわ」と答えが返ってくる。「会社」の「会」に,「電話」の「話」,彼らには難しいことではない。「漢字の意味は?」「会って,話します」これも難しいことではない。日本語の語彙の導入は,ある程度,漢字がわかっている人には実に簡単である。確かに初級の最初から漢字を導入するのは難易度を高めていると言えるが,一昔前まで(実際には今も),漢字の存在が非漢字圏の学習者の日本語学習の障害になると言われていたが,その考え方が間違えだったと,ヤポニクムで教え始めて,いっそう感じるようになった。

第1課 4時30分~5時30分 文法説明・文法導入

文法事項
~つもりです。~ないつもりです。~てもいいですか。~てはいけません。~なくてもいいですか。~なくてはいけません/~なければなりません。

「~つもりです」「~ても」は,前の自己紹介の時間に導入/練習を終わらせておいたので,他の文型の導入である。

基本的に,初級IIでは,午後に文法説明。次の日の午前中に応用練習となっており,ドイツ語で文法説明ができない私は午前中の授業を担当することが多い。今回,初めてこの課の文法説明を担当する。と言っても,最低限のドイツ語は,授業中に黒板に貼る大きなポスターに書いてあるから,随分助かる。

ただ,文型練習のとき,「日本ではバスタブの外で体を洗わなくてはなりません」と一応言えた参加者が,「私は今,何を言っているのだ。この複雑な文は何なんだ」と一瞬パニックに陥った。でも,他の参加者が,「簡単にmüssen(must)と覚えろ。複雑に考えるな」って言ってくれ,私が「日本ではバスタブの外で体を洗いますか。洗いませんか」と質問,「バスタブの外で体を洗います」「OK. もう一度,müssenの文を作ってください」それで,「日本ではバスタブの外で体を洗わなくてはいけません」ができて,「わかりました」と言ってくれた。

今回,私が聴いて分かる範囲のドイツ語で,参加者が自分の気持ちを言ってくれたので私も気づくことができたが,今回のことは,「指示どおり文を作れること」と「理解して文を作ること」とが違うことを改めて教えてくれたように思う。

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