言語文化教育研究会
2010年度シリーズ研究会
言語教育とアイデンティティ形成 ― 日本語・国語・外国語の連携と再編
- 国際シンポジウム開催(2011年3月5~6日)へ向けて ― 細川英雄
- スケジュール
- 〈資本+国家〉主義の変化による個人・国家のアイデンティティの脱&再構築について ― 複数文化戦略と人種なきレイシズムの密約に関する一考察 / 春原憲一郎氏
- 《わたし》に何が語られるのか ― ことばの学びにおける複合アイデンティティ / クレア・マリイ氏
- 書き手としてのアイデンティティを形成する ― 大学アカデミック・ライティング・プログラムでの協働的活動を通して / 佐渡島紗織氏
- 大学の教養教育において文章を書くことによってアイデンティティに迫れるか?(仮題) / 小沢一仁氏(東京工芸大学・心理学)
- タイトル未定 / 河野哲也氏(立教大学・哲学)
- 国際研究集会: 2011年3月5日(土)~6日(日)
※研究成果は,書籍単行本化を検討中。
※このシリーズ研究会「言語教育とアイデンティティ形成 ― 日本語・国語・外国語の連携と再編」は,科学研究補助金による共同研究「アイデンティティ形成にかかわる言語教育とその教師養成・研修プログラムのための実践的研究」(基盤研究c,課題番号:22520540,研究代表者:細川英雄)の研究プロセス公開を目的とし,2010年度「言語文化教育研究会」として開催される公開研究会です。なお,なお,この研究会は,前年度までの「ことばと文化の教育を考える会」を合併吸収して行われます。
国際シンポジウム開催(2011年3月5~6日)へ向けて ― 細川英雄
近年,多文化共生社会での言語教育のあり方がさまざまな場面で問われている。たとえば,最近発表された「留学生30万人計画」の背景には,日本の産業市場にとっての外国人労働力の問題があり,そこには常に外国人のための日本語教育の問題が横たわっている。
戦後の日本語教育は,国語教育から分離独立したが,これは新しい方法にはなりえても,新しい理念には至らなかった。ここでは,言語による人間理解の理念とその達成ではなく,「外国人に何をどのように教えるか」という方法・技術が模索されたに過ぎなかった。また,学校教育としての国語教育が,めまぐるしい「国際化」の中で,個人と社会への総合的な視野を失い,ことばと人間形成の本来的な機能を果たしえなくなっている現実を直視しなければならない。そして,国際化に名を借りた英語教育の猛威は,小学校のカリキュラムの中で,ことばと人間の関係を子どもたちに考えさせる余裕を失わせている。しかも,それぞれはほとんど別のこととして,協働・連携の意識もなく,ばらばらに行われている。
ことばは人をつくり,文化をつくり,社会をつくる。人は何のためにことばを学ぶのか。この重要な問いを見失ったまま,「効果的」な教育方法をめざして突き進んで来たツケが,今,日本のことばの教育を根底から揺さぶることになっている。この言語教育 ― 日本語・国語・外国語の教育をどのように連携・再生させ,新しい言語教育として再編して位置づけるための思想が今,求められている。言語教育そのものが人間形成の支援であり,人間によって行われる文化的かつ社会的な営みであるという視点に立てば,ことばの学習/教育の社会的・文化的意味を問うという行為は,当然のこととして,非母語話者に対する「日本語」教育と母語話者に対する「国語」教育,そして国際化のための「英語」教育といった見方の変容をも迫ることになるだろう。
ここでは,以上のようなことばの教育を,アイデンティティ形成という観点から新しく総合的に捉えなおす試みを開始したい。ここでいうアイデンティティとは,個人が様々に有している,複数の「居場所」感覚をさすものと仮に定義しよう。そうした内在する「居場所」感覚の形成・更新にとって,言語教育はどのような意味を持つのか。また,その際に果たすべき教育実践の役割とは何か。こうした問題を,言語教育政策の問題を視野に入れつつ,継続的な議論を積み重ねていくこととする。 (2010年5月)
開催スケジュール(予定)
- 第1回: 2010年6月11日(金)春原憲一郎氏
- 第2回: 2010年7月16日(金)クレア・マリイ氏
- 第3回: 2010年10月15日(金)佐渡島紗織氏
- 第4回: 2010年12月10日(金)小沢一仁氏
- 第5回: 2011年2月4日(金)河野哲也氏
- 国際研究集会: 2011年3月5日(土)~6日(日)
- 第1日: パネルシンポジウム
- 第2日: 研究発表(7月募集詳細決定,9月末応募締切)
第3回:「書き手としてのアイデンティティを形成する ― 大学アカデミック・ライティング・プログラムでの協働的活動を通して」
- 話題提供: 佐渡島紗織氏(早稲田大学ライティングセンター・ディレクター)
- 2010年10月15日(金)17:00~19:00
- 早稲田大学早稲田キャンパス22号館 8階会議室[アクセス]
本話題提供の目的は,「書き手としてのアイデンティティ」を守り育てる意義を,大学ライティング・プログラムでの実践を通して確認することである。筆者がかかわってきた大学アカデミック・ライティング・プログラム ― 《ライティング・センター》(支援機関)と《オンデマンド授業》(文章作成授業)では,「自立した書き手」を育てることを目標としている。「自立した書き手」とは,何が書きたいかを自ら模索し,文章作成のプロセスを自覚し,問題点や修正法を特定することのできる書き手である。これらの指導プログラムでは,自身も論文を執筆している大学院生たちが,対面または非対面による対話を通して,書き手の,文章に対する主体的なかかわりを促す。この,両者による協働的な活動の中で,どのようにすれば,書き手の自立をより支援することができるのか,どのような指導要素がより自立を促すのかを探る。その中で「書き手としてのアイデンティティ」が生れたり変化したりする様子をとらえたい。
第2回:「《わたし》に何が語られるのか ― ことばの学びにおける複合アイデンティティ」
- 話題提供: クレア・マリイ氏(津田塾大学)
- 2010年7月16日(金)17:00~19:00
- 早稲田大学早稲田キャンパス22号館 8階会議室[アクセス]
- チラシをダウンロードする[PDF]
アイデンティティとは簡単にいうならば,「《わたし》のとっての《わたし》」ならびに「《他者》にとっての《わたし》」なのだ。双方の《わたし》はときに調和をし ときには対立をしながら「他者」との間に立ち現われるのだ。ここで登場する《わたし》とは実践的で,複合的である。
ことばの学びという実践においては,《わたし》と《わたし》が出会い,互いに語りあい,学びあうのだ。複合的である「わたしたち」はお互い交渉しながら対話をしていくのだ。今回は,ことばの学びに登場する《わたし》という視点を考えていきたい。特に,他者とのネゴシエーションを念頭におきながら日本語話者の複合アイデンティティを考慮した言語教育実践を検討したい。多文化共生という概念に批判的な眼差しを向け,支援する/支援されるという対立的な関係を援助しないことばの学びの可能性を探る。
第1回:〈資本+国家〉主義の変化による個人・国家のアイデンティティの脱&再構築について ― 複数文化戦略と人種なきレイシズムの密約に関する一考察
- 話題提供: 春原憲一郎氏(海外技術者研修協会AOTS日本語教育センター長)
- 2010年6月11日(金)17:00~19:00
- 早稲田大学早稲田キャンパス22号館 8階会議室[アクセス]
- チラシをダウンロードする[PDF]
本発表ではまず,旧大英帝国系の多文化主義と欧州系の複文化主義は,〈資本+国家〉主義が第三者の審級として「再び,新たな」普遍性を標榜することの,論理的必然であることを論証する。そして,個人・家族・企業・自治体・国家のアイデンティティの流動化と同時にスローターダイクの指摘した,すでに「啓蒙された虚偽意識」としてのシニシズムが,先進各国の移民受入にあわせて,19世紀につづく第二の俗語革命として,英語を筆頭とする外国語教育や識字・ライティングに焦点化された国語教育を牽引しているのではないかという争点を提起する。
国際研究集会「言語教育とアイデンティティ形成 ─ ことばの学びの連携と再編」(仮)
- 2011年3月5日(土)~6日(日)早稲田大学22号館
- 第1日:パネルシンポジウム
- 第2日:研究発表(7月募集詳細決定,10月末応募締切)
《研究成果は,書籍単行本化を検討中。》
- 第1日目:3月5日(土)
- 14:00~14:20 開会挨拶,研究会の趣旨説明: 細川英雄
- 14:20~15:30 基調講演 アリーヌ・ゴアール(スイス・フリブール大学)+通訳(山本冴里)
- 15:45~16:45 パネルシンポジウム: 難波博孝(広島大学),川上郁雄(早稲田大学),細川英雄(早稲田大学),アリーヌ・ゴアール,ほか
- 16:45~17:30 全体討論
- 第2日目:3月6日(日)
- 研究発表(予想研究発表数:10)
- 討論 :「言語教育とアイデンティティ形成―ことばの学びの連携と再編」(仮題)